探偵ノート

第79号 – ラ・ボケリア市場にて

Update:
この文章は2017年6月3日に書かれたもので、原稿を整理していたら出てきたので、掲載いたしました。

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春の日差しを受けるバルセロナのランブラス通り。
久しぶりにポケットに僅かな現金とクレジットカード、そしてiPhoneだけを持ち身軽な姿でブラついている。いつもなら各種筆記用具、PC、レーザーポインター、財布、手帳、折りたたみ傘などフル装備したバックパックを背負っている。バッグを持たないというだけで、歩き方や目に入ってくるものが違ってくる。すれ違ったお嬢さんを振り返る余裕さえ今日はある。何も持たずに散歩に出たのはランブラス通りが最も観光客が狙われる危ない場所だから。地元の爺さんたちと同じような格好をした方が良かろうという思惑だ。
ここバルセロナには楽しい場所が沢山あるが、このラ・ボケリア市場はその一つだ。私は市場が大好き。何処の都市に行っても市場には珍しい食材や地元の生活を知るだけでなく、沢山の人の喜怒哀楽を見ることができるからだ。そこで売られている物も面白いが、売り買いしている人たちのやり取りも面白い。毎日くり返しの所作なのだが街によって流儀が違う。包丁の使い方、秤の掛け方、呼び込みの口上や客の値切り方まで。その僅かな違いや大きな違いをじっと観察していると、ついつい時間のたつのを忘れてしまう。

さて、この市場はランブラス通りから西に少し入ったところにあるが、天窓のある大屋根に囲われた広い敷地にある。大屋根からは僅かなデイライトが入ってはくるが、店先の商品にはそれぞれに工夫された照明が当てられている。その混沌とした工夫の数々が面白い。
先ず入り口付近には観光客目当てなのか生ハム屋が密集している。私はハモンイベリコ(ドングリだけを食べたイベリコ豚の生ハム)が大好物なので、買うふりをしながら店先の試食を繰り返す。ここの店では商品が美しく美味しそうに見せるための色温度の低い(暖かい色味の)LEDのダウンライトとスポットライトが丁寧に当てられている。白熱ランプのように食材に熱を与えないので、ずいぶん明るく照らし出している。生ハムにあてられた光が反射して軒裏までも赤く染まっている。
それに比べて魚屋のLEDはずいぶん色温度が高い。うん、周囲の色温度の低い店と比較するから明らかに新鮮そうに見える。真っ白な光が青魚や烏賊の白肌には向いているようだ。もちろん市場で使うLEDは演色性がとても高いに違いない。少し実際の色味より鮮やかに見えるものも使われているようだ。
また卵屋などもあって、周りの店とは一味違う雰囲気を醸し出している。見るからに卵が美味しそうにディスプレイされている。卵掛けご飯を思い出してしまいそう。近づいてよく見ると何とここだけはLEDでなくハロゲンランプのスポットだ。やはり暖かさの品質にこだわっているのかなと思った。
そのほかに、もちろん野菜屋、果物屋、乾物屋、香辛料屋、菓子屋、居酒屋にカフェ、レストランなど、バリエーション様々。それぞれに今はやりのLED照明を駆使して客の気をひくための工夫をしている。いくつかの店には多少の助言を必要としているものもあるが、スペイン語を話せるわけでもないので余計な世話はやめておいた。

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