探偵ノート

第025号 – せんだいメディアテークの出現

Update:

話題の建築・せんだいメディアテークの施設が、2001年1月26日に開業しました。建築設計は伊東豊雄さんとその息の合った仲間たち、そして構造設計の佐々木睦朗さん。1995年に公開設計競技に応募した235案の中から磯崎新さん(審査委員長)によって選ばれた最優秀賞でもあります。私たちLPAもこのコンペの前後からこの建築の全般に渡って照明デザインを協力してきました。

世の中には色々変わった姿の建築がありますが、このように美しく斬新な気配を放っている公共建築物も珍しいのではないかと思います。施設の中身は複合文化施設で、スタジオ、マルチメディア図書館、ギャラリー、多目的スペース、プラザ、ショップ、カフェ、などなど・・・。延床面積は約22000平方米、鉄骨造+一部鉄筋コンクリート造、総工費約130億円、地下2階地上7階建てで、一辺が約50mの正方形の平面をしています。ユラユラと波に漂う海草のような構造体が、400mmという薄い床スラブを貫通している様がイメージ通りに実現されました。仙台の有名な定禅寺通りに面したファサードには二重の透明ガラスがはめ込まれていて、道行く人に建築内部の様々な様子を透視させ、市民に開かれた新しいタイプの公共施設のモデルを提示しています。まあ、世紀末を代表する新建築であり、たまたまオープンが2001年1月になったので、21世紀幕開けを飾る新建築でもあるわけですが、これほど野心的でコンセプチュアルな表現に成功した例も少ないと思います。色々な建築雑誌などに同時に発表されることでしょうが、紙面の写真を眺めるだけでなく、是非一度、仙台に行ってこの建築の空気を細かく観察してみるべきでしょう。色々なことが感じとれるはずです。

照明計画のコンセプトは、如何にこの特殊な構造とガラスから与えられる透明なイメージを、昼夜の対比の中で鮮明に視覚化するか・・・、ということです。そしてもちろんその上で、施設が市民活動にとってフレキシブルに使いやすい照明システムを実現することです。建築のコンセプトが単純明快であることが、如何に光のコンセプトを矛盾なく引き出すか、の好例といえます。

そのコンセプトを照明手法として展開するときに、重要だったのが、チューブの中を貫通する自然光と人工光の昼夜の対比、それと積層された各階内部と、それを串刺しにするチューブ内に満たされた光の対比です。

様々な紆余曲折を経たあとに、13本のチューブのうちの各階中央に位置する2本に限定して、屋上階に設置された太陽光追尾装置を利用して、昼光を建築内部に取り入れる工夫を施すことにしました。太陽光を建築内部に反射鏡を利用して引き込むシステムは、近年色々計画されていますが、設備を投資するほどの合理的な光の量を得るに至っていないのが実情のようです。この建築においても、太陽光追尾によるチューブ内への光の取り入れは、光の量を取り入れることよりも、むしろ人工照明に支配された室内労働に刻々と変化する建築外部の気配を伝える役割が評価されているようです。私の行ったときにも、室内の一部に坪庭から落ちてくるかのような、気持ちの良い太陽の反射光が降り注いでいました。夜間にはこれが一変して、地下2階と屋上階に設置された人工照明によって、チューブ内部は輝き立ってくるように計画されています。

夜間において、フラットスラブによって積層された光の束と、チューブ内部に満たされた貫通する光を対比するために、3500K(ケルビン)と5700Kという色温度の対比を意図しました。つまり温白色というやや暖かい色の光と、水銀ランプによる白く冷たい色の光を水平垂直で対比させているのです。この考え方は、建築断面図に光の色を概念的に塗ってみると解り易いのですが、地下1階の駐車場にはさらに青白色の蛍光ランプを使用していることもあって、水平の暖かい光、垂直の冷たい光、のコンセプトがいっそう明確に説明できます。しかし最終的な夜の建築外観では各階の床の仕上色などの影響もあって、積層された各階は様々な固有の表情を見せているのも、面白いところです。

伊東豊雄さんはこの建築の中で様々な種類の虚ろな光を交錯させようとしています。単純化された建築の中で自然光と人工光が入り組み透層する仕掛け。室内から外の気配を虚ろに感じたり、チューブを介在して上下の積層空間が視覚的に繋げられたり・・・。巧みに組み立てられたそれぞれの機能空間が、しかも優しい表情に仕上げられているのです。昼から夜へ・・・。ゆっくり時間を掛けてせんだいメディアテークに漂う光を観察したいものです.

おすすめの投稿