探偵ノート

第82号-他者との距離感のデザイン

Update:

Interviewer: 野村 桃江

野村:小学生のころ、人との関わりの中で深く傷つく経験をしました。悪いあだ名をつけられたり、家庭のことをからかわれたり、授業中に物を投げられたり…。当時は自分を守るすべがなくて、人と距離をとることが自然になっていったんです。そうすると言葉もうまく出てこなくなって、ますます人と関わるのが怖くなる。そういう時期が長く続きました。大人になった今でも、近すぎると怖い、でも離れすぎると寂しい。その「間」をどうつくるのかという問いが、自分の中でずっと残っています。

面出:なるほど…。人との距離感をどう作るかは、生きていく上で大事なテーマですよね。僕はね、相手と向き合って話すときに、正面よりも斜めに座るのが好きなんです。ずっと視線を合わせていると、どこに逃がせばいいか分からなくなってしまうけれど、斜めだとちょっと安心できる。目線の逃げ場所があると、話すこと自体も自然になります。

野村:私も斜めにいる方が好きですね。というのも、昔は自分の顔にあまり自信がなくて、正面からじっと見られるのがすごく苦手でした。コンプレックスがあって、人と対面すること自体が負担に感じていたんです。だから斜めの方が逃げ場所があって安心します。
今は、ダイエットをしたり、メイクを研究したりして、少しずつ自信を持てるようになってきて、正面で話すことも以前ほどは怖くなくなりました。相手にちゃんと向き合えるという感覚が得られて、少しずつ距離感の取り方も変わってきたように思います。
ただ、それでも人と親密になるまでには時間がかかります。これは一人っ子だからなのかな、と考えることもあります。面出さんは兄弟はいらっしゃいますか?

面出:僕は男ばかりの三人兄弟で、真ん中っ子です。上と下の間に入って、自然と調和を取る役割をしていた気がします。兄と弟の間をうまく取り持つことで、ぶつかりを減らすようにしていたというか。母親は手のかからない子だったと言っていますよ。

野村:私は一人っ子なので、兄弟喧嘩というものを経験したことがありません。だからこそ「他者とどう接するか」を、自然に学ぶ機会が少なかったのかなと思います。兄弟がいれば、喧嘩したり仲直りしたりする中で、相手との距離の取り方を自然と身につけられたのかもしれません。

面出:確かに、兄弟がいれば日常的に「近すぎる距離」と「ちょうどいい距離」を経験することになりますね。喧嘩して離れたり、また一緒に遊んで近づいたり。そういう繰り返しで、距離感を調整する術を覚えていくのだと思います。一人っ子で親の愛情をひとり占めだけど不利なこともあるよね。

野村:私はその経験がなかった分、人との距離感をつかむのに時間がかかっているのかもしれません。近づきすぎると自分が消耗してしまう、でも遠ざかりすぎると孤独になる。その“間”をどう保つかを、ずっと模索している感じです。

面出:それはきっと、野村さんにとっての人生のテーマのひとつなんでしょうね。人との間合いを意識するからこそ、相手に寄り添おうとしたり、ちょうどいい関係を探ろうとしたりする。

野村:そうかもしれません。私は一度傷ついた経験があるからこそ、人とどう距離を取るかに敏感になりました。でもそれは悪いことばかりではなくて、相手の心に近づくための手がかりにもなるのかもしれないな、と思うようになってきました。

面出:人との距離の取り方って、誰にとっても大きなテーマですし、年齢や経験によっても変わっていくものです。お互いに「ちょうどいい間」を探し続けることが、生きていくことそのものなのかもしれませんね。これの解決方法はいろんな人とかかわること。デザイナーという職業は人とかかわることが多いため、これを克服しなくては成立しない。色々と実験的に試してみて、自分を試してみて、自分を鍛えていくべきだね。

野村:子どもの頃は人との関わりが怖かったけれど、その経験があったからこそ「他者との距離感」について深く考えるようになりました。これからは人との距離感を楽しめるように頑張ります。

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