世界都市照明調査

都市照明調査: 西安、中国

Update:

新開発エリアのムスリム街
2025.11.06-11.09 Quratuaini Jamil + Xu Sunny

今回の調査は、西安のムスリム居住区を対象に、その宗教・文化・都市計画的背景がどのような特徴を持っているかを探ることを目的に行った。特に、歴史あるこの地区が、市内で進む近代的な街づくりとどのように融合しているかに注目した。

ムスリム街バザール正面のプラザ

■ 照明調査概要
人口1,290万という巨大な規模を誇り、そのうち4.45%が都心部に集中する西安は、中国屈指の歴史文化都市である。この街は今、伝統と現代を鮮やかに織り交ぜる都市計画を推し進めている。街が誇る歴史的資産を近代化のニーズと調和させつつ、重要な文化的エリアを細心の注意を払って守り抜いているのだ。
その象徴的な存在がムスリム街であり、今なお息づく生きた遺産、民族の多様性、そして伝統的な都市の骨組みを保存する上で、極めて重要な役割を担っている。西安の計画理念は「保存のための発展、発展のための保存」という点に集約される。それは、新しく生まれゆく都市と、歴史を刻んだ建築とが共存する、調和の取れた風景に映し出されている。本調査では、この新旧の両者が、ムスリム街のような特別地区において、いかに実効性のある統合を果たしているのかという点にフォーカスしている。

鼓楼付近の断面スケッチ

■ムスリム居住区
初日は西安大清真寺にて金曜礼拝を調査。モスク内部の空間構成や建築的な特徴を詳細に見る貴重な機会となった。
西安大清真寺の主な特徴は、中国の伝統的な建築様式とイスラム教の宗教的機能が唯一無二の形で融合している点だ。シンガポールなどで一般的に見られる、壮大なドームや高くそびえるミナレット(光塔)を配した中東風のスタイルとは、明らかに一線を画している。その象徴が、中庭の中央に鎮座する仏塔(パゴダ)のような形状をしたミナレットである。ランドスケープの構成は、中国伝統の「四合院」的な中庭形式根ざしており、その最奥に位置する礼拝本堂へと至る。そこには、力強いアラビア書と、龍の曼荼羅文様を刻んだ重厚な石門が、本堂を縁取るように毅然とそびえ立っていた。

西安大清真寺 入り口

内部に足を踏み入れると、木造の礼拝本堂は静かな薄暗がりに包まれていた。壁一面には細密なコーランの経文が刻み込まれ、その深い色調の建材が生む暗がりを補うように、5000Kの汎用照明が室内を照らし出していた。敷地内の他の空間も同様に、装飾のない剥き出しのランプが置かれているのみであった。
残念ながら、訪問した冬季の閉門時間が午後5時半と早く、夜を迎えたモスク内部の情景を捉えることは叶わなかった。代わりに、モスクの周辺に広がる通りへと足を向けた。「ムスリム・バザール」の名で知られるエリアで、溢れんばかりの食文化や商店、そして娯楽施設がひしめき合う、活気に満ちた場所であった。

■ムスリム・バザール
夜を迎えると、ムスリム街のバザールは商業的な活気と文化的遺産が交錯する、鮮烈でダイナミックな空間へと変貌を遂げる。通りは屋台や商店、娯楽施設から放たれる温かみのある力強い光に照らされ活気満ちている。ネオンサインやLEDテープライト、そして吊るされたランタンが色彩とエネルギーを加え、行き交う人々の視線を商品や色鮮やかな料理へと惹きつけていた。

街路灯はあえて控えめに抑えられており、歩行者の安全を確保しつつも、個々の店舗が放つ光を主役に据えている。一部の通りや入り口には伝統的なランタンが組み込まれ、中国の文化的意匠をさりげなく、かつ確実に強調している。光り輝く屋台と、それを取り巻く柔らかな環境光が生み出す光のレイヤーは、空間に深い奥行きを与え、バザールの躍動感をより鮮明に描き出していた。
総じて、ここでの照明戦略は、商業的な機能性と文化的な表現を高い次元で両立させている。これは、エネルギッシュでありながらどこか親密さを感じさせる夜間景観を創出していた。輝かしい商業ゾーンと、情緒的な風景の間に生まれる光の相互作用が、唯一無二の記憶に残る都市体験を形作っているのである。

伝統衣装を纏った観光客と西安博物館

■西安博物館
西安博物館は、周、秦、漢、唐の各王朝にわたる膨大なコレクションを通じ、この街が誇る豊かな歴史的遺産を世に示している。その建築は、近代的なデザインと唐代の様式美を融合させた独特の佇まいを見せる。隣接する小雁塔や手入れの行き届いた庭園とともに、この場所は重厚な文化の蓄積と、洗練された静穏な佇まいを提供してくれる。
特に印象的だったのは、古代の配管部品や床タイル、軒瓦といった日常的な資材を通じて歴史の変遷を辿る展示、あるいはAI技術を駆使した高度な歴史解釈の試みである。なかでも、隋唐時代から宋代に至る都市計画の変遷に関する展示は、都市の規模や空間構成の劇的な変化を鮮やかに描き出しており、非常に興味深いものであった。
この博物館は、歴代王朝の都として、そして常に変容し続けるダイナミックな都市としての西安の歩みを理解する上で、極めて貴重な手がかりを与えてくれる。

■大唐不夜城
「不夜城」と称されるこのエリアでは、極めて高輝度かつ鮮やかな色彩を放つファサード照明や屋外照明が多用され、商業ゾーンとしての圧倒的な力強さが強調されている。対照的に、城壁の一部はあえて灯りを抑えており、現地の写真家たちはその暗がりを影絵のような演出に巧みに活用していた。

大雁塔は、明るさと色温度の双方を抑えた控えめな照明に包まれており、周囲の煌びやかな光の海との間に、鮮明なコントラストを描き出している。また、その塔を背景に、観光客向けの商業的な撮影を行う多くの写真家の姿が散見された。
街路樹は、ライン状の装飾灯やリンゴ型のランタン、そして5000Kのライン照明で彩られ、樹冠には黄色のRGBライトで書道文様が浮かび上がっている。伝統的な中国建築を模した商業ビルは、スポットライトを用いて細部の意匠を照らし出し、構造美を際立たせている。強烈な商業光と薄暗い景観のコントラストは激しいものの、全体としては驚くほど調和の取れた印象を与える。この光の相互作用が、現代的な光の演出と歴史的遺産を同時に示す、多層的で没入感のある夜間景観を創出していた。
西安には少数派としてのムスリム文化が息づいているが、同時に人々は自らの中国的なルーツに対し深い誇りを抱いているようだ。その精神性が、この都市特有の文脈の中に明確に映し出されている。

■まとめ
西安のムスリム街および都市照明の在り方には、今なお中国の文化的伝統が色濃く反映されている。これは、この街の膨大な人口、そして祝祭的で華やかなライフスタイルを好む気質を映し出すものと言えるだろう。
各空間は、活気に満ちた空気感を創り出しており、同時に安全性を高めるために極めて明るく照らし出されている。特に建物の鉛直面を強調する手法によって、建物そのものが巨大なランタンのように光を放っているのが特徴的であった。街の看板や伝統的な装飾から取り入れられた多色使いの照明は、一見すると統一感に欠けるようにも映るが、市民には概ね好意的に受け入れられており、その賑わいの一部として親しまれているようだ。(Quratuaini Jamil、Xu Sunny)

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