西オーストラリアの都市照明と自然光
2025.10.28 – 11.01 Hongna Chen + Puyu Wu

今回は、西オーストラリアの地域文化や自然景観が照明環境にどのような影響を与えているかを探ることを目的に調査した。 特に、この地域の地理的な遠隔性が、独自の照明デザインを生み出すきっかけになったのかという点に注目し、パース市内と周辺の自然エリアで現地調査を行った。
■地理的にみたパース
西オーストラリア州のパースは、「世界で最も孤立した大都市」としばしば称される。その理由は、西にはインド洋、東には広大な砂漠地帯が広がるという極端な遠隔性にある。他の主要都市との距離は、ダーウィンから約4,000km、アデレードから2,700km、さらにシドニーやメルボルンといった東部の主要都市からは3,000km以上にも及ぶ。こうした「陸の孤島」ならではの独特な夜景が、今回の調査の主眼である。
■パノラマ夜景
パースの街並みを一望できる場所として、市内で最も大きな公園、キングス・パークを訪れた。地元の人々に人気のレクリエーションスポットであるこの公園では、多くの人々が思い思いに夕刻を過ごしていた。我々も展望スポットに陣取り、夜の訪れを待った。
陽が落ちると、パースの照明構成が眼下に浮かび上がる。高層ビルが立ち並ぶCBDエリアはクールホワイトの光の塊として際立ち、対照的に地上の通りは温かみのあるイエローの街灯が規則正しく並んでいる。川辺のわずかな明かりに縁取られたスワン川の姿も確認できた。何よりも目を引いたのは、市街地の光が途絶えた瞬間に訪れる圧倒的な闇である。光の広がりがすぐさま深い暗闇に飲み込まれていく様子は、この街の地理的な隔たりを何よりも雄弁に物語っていた。


■都市夜景の現状
後日、エリザベス・キーやレーガン・スクエアを含む、市内の商業中心地とウォーターフロントの照明調査を行った。
ウォーターフロントの照明は、驚くほど控えめなものであった。平日・週末を問わず、埠頭の輪郭をなぞるような最小限のライン照明が施されているに過ぎない。対照的に、商業中心地は非常に活気に満ちており、色鮮やかな光のビームが街に賑わいを添えていた。道路を照らす標準的なハイマスト照明に加え、商業施設から漏れる多様なカラーライトが融合し、ダイナミックで祝祭のような高揚感のある夜間環境を作り出していた。
■都市部の照明構成
夜のパースを観察して見えてきたのは、ゾーンごとに役割を明確に分けた、極めて構造的な照明デザインのアプローチである。
商業地区では視覚的な表現が大胆に許容されており、色鮮やかな光のビームやダイナミックなプロジェクションが、街に活気ある表情を与えている。しかし、そこからCBDのオフィス街、さらに居住区へと足を進めるにつれ、明かりは段階的にその静けさを増していく。これらのエリアでは、照明は必要最小限の機能的なものに限定されていた。ネオンや装飾的な明かりは一切排除されており、実用性と光害の抑制を明確に優先させる姿勢が読み取れる。
■西オーストラリア州立美術館(AGWA)
市中心部のパース・カルチャー・センター内に位置するAGWAは、誰もが自由に入館できるオープンな美術館。この一帯には州立図書館、パース現代美術館(PICA)、博物館が集まっているが、訪問時は博物館が改修中であったため、今回の調査はAGWAに焦点を絞って行った。
館内では、写真、絵画、インスタレーションという3つの異なる展示を詳細に観察した。そこでは、それぞれの作品の性質に合わせ、緻密に計算されたライティング戦略と配光角が採用されていた。
人間味あふれるテーマを扱った写真展では、均一で柔らかな光が空間全体を包み込み、穏やかな鑑賞環境を作り出していた。対照的に、表現豊かな油彩画の展示では、色温度を低く抑えた暖色系の光と控えめな周囲輝度が採用され、作品と深く向き合う内省的な体験を促していた。また、インスタレーション作品においては、作品ごとにライティングがカスタマイズされており、薄暗い空間の中に鋭いビームが作品を浮かび上がらせる手法がとられていた。
特に目を引いたのは、間接照明を駆使したテクニックである。光をキャンバスの白いエッジに沿わせるように照射することで、額縁そのものが発光しているかのような効果を生み出し、作品が壁面から浮き上がっているような錯覚を与えていた。展示照明に対する、深く独創的なこだわりが感じられる手法であった。

■西オーストラリア大学 (UWA)
UWAはその比類なきキャンパスの美しさで知られ、オーストラリアで最も絵になる大学の一つと称されている。その建築的アイデンティティを象徴するのは、ロマネスク・リバイバル様式のアイコンともいえる砂岩造りの校舎、壮大なアーチ、そして静謐な回廊に囲まれた中庭である。
キャンパスに足を踏み入れ、まずは建物と周囲の環境を外観から調査した。なかでも際立っていたのは、六角形の花びらをモチーフにしたファサードを持つ「EZONE学生センター」。ガラスのカーテンウォールと黄金色の建築エレメントが織りなすデザインもさることながら、内部に足を踏み入れると、ドラマチックな吹き抜け空間がダイナミックで魅力的な体験をもたらしてくれた。
UWAでの調査を通じて強く印象に残ったのは、歴史的遺産と自然光が実に見事に調和している点である。多くの建物に共通する高い天井や、豊かな日光を採り込む全面窓、そして木製のパネルが設えられた講義ホールといった古典的要素は、学問の伝統と厳かな品格を漂わせていた。
試験に臨む学生たちの姿や、図書館で自習に励む光景も目にしたが、そこでは大きな窓から自然光が惜しみなく注ぎ込んでいた。その柔らかな光は、建築のディテールを際立たせるために緻密に設計された、温かみのある間接照明と溶け合うように混ざり合っていた。主張しすぎない控えめな照明と古典建築の融合は、思索を深めるのにふさわしい、穏やかな学習環境を作り出していた。

■セント・ジョージ大聖堂
パースの中心部に位置するセント・ジョージ大聖堂は、ゴシック・リバイバル様式のランドマークである。外観を特徴づける印象的な砂岩のファサード、尖頭アーチ、そして高くそびえる尖塔は、ゴシック様式特有の荘厳さと垂直ラインを強調した意匠を鮮明に描き出している。
日中に訪れると、聖堂内では数人の参拝者や見学者が静かに祈りを捧げ、あるいは思索に耽っていた。この機会を利用し、インテリア照明の事前調査を行った。
一歩足を踏み入れると、静かで神聖な空気に包まれる。内部は伝統的なバシリカ様式の構造で、細身の石柱が高いヴォールト天井を支えている。ステンドグラスから差し込む柔らかな光は、緻密に配置された人工照明と溶け合い、精巧な木彫りや記念碑、そして祭壇を彩る装飾の数々を美しく浮かび上がらせていた。時が止まったかのような静けさと、圧倒されるような神々しさを感じさせる空間であった。
日没後、夜間照明を記録するために再び大聖堂を訪れた。巧みに配置されたスポットライトがゴシック様式の細長い外壁を照らし出し、高く伸びるラインと建築のディテールを際立たせていた。ファサードを包み込む温かいアンバー色の光は、日中に感じた荘厳で神聖な雰囲気を、夜間も損なうことなく再現していた。この手法は、現代の照明技術がいかに歴史的遺産への敬意を保ちつつ、夜という時間帯にその新しい魅力を引き出せるかを見事に示している。(Puyu Wu)

■街路照明
パースの街路照明は場所によって様々であり、都市全体としての統一感には欠けている。
1. ウォーキングストリート
多くの店舗が立ち並び、歩行者が行き交うこの通りでは、光源を上部の反射板に当てる「間接反射照明」が採用されている。照明柱の高さは5m、設置間隔は10mであり、照度を計測したところ、ポール直下で140ルクス、幅6mの道路中央部で69ルクスを確保していた。さらに、各店舗の軒先から漏れる明かりが、通り全体の明るさを補っている。調査時はちょうどハロウィンの時期であったため、祝祭感を演出するプロジェクション・マッピングも映し出されていた。
一方で、樹木に取り付けられた照明器具も見受けられたが、点灯はしていなかった。照明として機能していない器具は、景観を損なう要因となるため、撤去すべきではないかと感じた。

2. メインストリート
沿道の建物では、ファサードにカラー照明とホワイト照明を組み合わせた演出が頻繁に見られる。これは特定のイベント期間に限ったことではなく、日常的に行われているものだ。おそらく、「陸の孤島」というパースのイメージを払拭し、都市としての活気を演出するための計画的な戦略であろう。


3. パークストリート
パークストリートの照明は、片側のみに37m間隔で設置された高さ8mのポールライトによって構成されている。反対側では、広大な平原の先に広がる都市の眺望を遮らないよう、ポールライトに代わりに地中埋込型のアップライトが樹冠や幹を照らし出している。照度計測の結果、ポール直下で34ルクス、道路中心線上で15ルクス、平均25ルクスであった。
特に印象的なのが色温度の鮮やかな対比である。車道には3000K、樹木には5000Kを採用することで、それぞれの機能ゾーンを効果的に際立たせている。温かみのある光が車道を優しく包み込む一方で、寒色系の光が樹木の存在感を強調し、静かで心地よい空間を作り出していた。その光は決して刺激的なものではなく、全体として調和のとれた、安らぎを感じさせる輝きを放っている。思わず立ち止まって、夜のひとときを楽しみたくなるような、そんな魅力的な環境であった。

4. ストリート・コートヤード照明
多くの街灯は、隣接する建物の建築様式に調和するようデザインされている。これらの一つひとつに個性がある照明器具が、都市としての文化的な品格をよりいっそう高めている。

■自然光
パース周辺には豊かな自然環境が広がっており、一部の地域は「星空保護区(ダークスカイ)」に指定されている。こうした原生地域において、政府は観光や夜間経済の活性化を目的とした過剰な照明設置を避けている。代わりに、選定された特定の場所においてのみ、必要最小限の機能的な明かりを維持するにとどめている。
私たちは自然光の調査地として、ピナクルズ砂漠を選んだ。開放的な地形でガイド付きツアーも整備されているこの場所は、専門的な観測や星空鑑賞に適している。徹底した光害対策のおかげで、月光が鮮明な影を落とし、肉眼でも数えきれないほどの星々を仰ぎ見ることができた。それは、自然の光が持つ静かな力と魅力を、改めて強く実感させる体験であった。
■まとめ
今回の調査を通じて、この「孤立した」都市のベールを一枚ずつ剥がしていくように、その奥底に息づく、深く結びついたコミュニティの姿を見出すことができた。パースの照明デザインは、人々の心地よさを最優先に考え細部まで丁寧に整えられている。間接照明を駆使した技法によって不快な眩しさを抑え、穏やかで安らぎのある視覚環境を作り出していた。一方で、通りを彩る鮮やかな光のアクセントは、まるで街の鼓動のように活気を与えていた。それは、地理的な「孤立」が決して「寂しさ」を意味するものではないことを証明している。
しかし、この街に真の生命を吹き込んでいるのは、何よりもそこに暮らす人々との触れ合いであった。私たちは、交わされる会話の端々から、心からの温かさと親しみやすさを感じることができた。パースの照明デザインには、こうした人々の精神が反映されているのだろう。それはこの街が持つ優しさと温もりをそのまま体現し、訪れる人々を包み込むメッセージとして機能しているのである。(Hongna Chen)












