第12回世界照明探偵団フォーラム in Mexico City
2015.11.19-21 東悟子
世界で最大級の人口をもつメキシコシティ。長い歴史をもつ魅力あふれる街で、12回目の世界照明探偵団フォーラムが過去最大の規模で開催されました。テーマはSENSING LIGHT – FEELING LIGHT。照明は私たちの心にどのような変化をもたらすのか。3日間のワークショップを通し、さまざまな議論がなされました。
世界中から集まった15名の探偵団コアメンバーとメキシコ国立大学の建築専攻の学生を中心に3日間にわたって開催された今回のフォーラム。テーマはSENSING LIGHT-FEELING LIGHT。多くの問題を抱えるメキシコシティーの夜の景観を、現地の人たちはどのようにとらえ、どのように改善したいと考えているのか、実際に現地の学生と街を歩き、検討しました。
■Day 1: Orientation
オリエンテーションは築400年を超える歴史を持つMuseo de la Luz(光の美術館)で行われました。1チーム10名の参加者と2名づつのTNT-メンバーで構成された6チームに分かれワークショップがスタート。参加者は照明をすでに学習してきており、担当のエリアの下見も済ませ、探偵団の説明も受けていたので、オリエンテーションはTNT-メンバーの紹介のみで終了し、すぐに街歩きがスタートしました。
プレゼンテーション会場のMuseo Medicine
ワークショップ会場のMuseo de Luz
■City Night Walk
気になる所では立ち止まり、メンバーの意見を聞く
メキシコシティーの特徴的な6つのエリアを街歩き。昼間、多くの人で賑わう広場Plaza Santo Domingo周辺, アステカ遺跡を有するTemplo Mayor地区, 歴史地区の中心で観光客でいつも活気のあるMadero Zocalo、市民の憩いの場になっておりメキシコシティーで一番古い公園のAlameda Park, 主要道路が交差する革命記念塔周辺地区のRevolution, 街のビジネスの中心地Reforma。それぞれ夜にも人が多く集まる街の要であると同時に問題を抱える地区でもあります。ボディーガードに先導されながら照度計とカメラ片手に調査。ところどころ足を止め、コアメンバーの意見に耳を傾けたり、質問を投げかけたりする様子が見られました。チーム毎の調査内容は後述しますが、どのエリアもとても賑わっていて、活気がある印象を受けました。
Modero Zocaloエリア
Reformaエリアの色の変わる噴水
コメントや数値を記録
時には英雄か犯罪者かで意見が対立することも
Day 2: Group Discussion
各グループごとの部屋にわかれ、ディスカッション
各チームに分かれて、前日の街歩きの成果を話し合いました。3日間といういつもより時間に余裕がある中で、ディスカッションに時間がとれ、撮影してきた写真を見ながら、じっくり話し合い。同じ場所でも英雄と犯罪者に議論が分かれるところもあり、その場所の英雄/犯罪者と判断するキーワードを挙げていき、最終的にどちらにするかを判断するという作業を丁寧に行いました。コアメンバーは自分たちの意見を述べるというより、参加者の議論を促したり、どのようにプレゼンテーションパネルにまとめていくか、とういようなアドバイスをしたりと、意見を先導するような関わり方ではなく、チームをバックアップするような体制で臨みました。街の人や文化の個性を比較する上で、そのことが大切な事だと考え、コアメンバーはそのような関わり方をしています。地元の参加者が自分たちの考えをまとめ、街に提案する、という形をとっています。
プロポーザル用のスケッチを作成
前日撮影してきた写真を見ながら英雄か犯罪者を決定していく
Day 3: Presentation
各チーム、パワーポイントと3枚のパネルを作成し、3つづつ選んだ光の英雄と犯罪者を発表。問題点を明確にし、その問題を解決するプロポーザルを起案しました。
Pecha Kucha Talk Evnet の様子
各班3枚づつプレゼンテーションボードを作成
プレゼンテーション会場の様子
会の最後にコアメンバーからの感想を発表
Team 1:Plaza Santo Domingoの英雄は心地よいアウトドアリビング空間となっている広場の照明。その他、人にやさしい明かりを提供している出店や視覚的アイコンになっている建物へのライトアップが挙げられました。犯罪者は真っ暗なブラックホールのように点在する空間や、反対にまぶしく光があふれている通り。静かで荘厳な教会の雰囲気を壊すまぶしい照明など。土地の歴史や背景を解説しながら、その役割を言及し、それらを踏まえた上で夜の快適な照明の在り方を提案していました。高性能の照明をどのように配置するか、照明や空間のヒエラルキーをどのように作るかが提示されました。
Team2:Templo Mayorはメキシコシティーの歴史の原点。3つの英雄のキーワードは遺産へのあかり、自然への明かり、文化への明かり。それぞれそこに暮らす人々が必要としている明かりのキーワードが挙げられました。犯罪者のキーワードはグレア、配光、ヒエラルキー。照らされるべきところが照らされていなかったり、まぶしすぎて大切な建物が目立たなかったりしているところが指摘されました。その中で、きちんと空間のヒエラルキーを決めて照らすことが提案されました。
Team 3:のMadero Zocaloは小さいショップやレストランが多く立ち並ぶエリアで歴史地区で最もにぎやかな場所。ここで英雄とされたのは個性、アイコニック、プレゼンスなど、主張する明かり。犯罪者はアンバランス、グレア、悪い意味で行き過ぎた照明が選ばれていました。このチームは照度を全体的に落とし、きちんと配光を制御すること、ライトアップされていない教会などのアイコニックな建物を中からの漏れ光も考慮しながらライトアップし、中の活動を外からも感じるようにするということが提案されました。
Team 4: Alameda Parkはたくさんの市民が夜でも安全に過ごせるよう、均一性、安全性、人にやさしい光が英雄として挙がっており、場にそぐわないカラーライティング、色温度やグラデーションの不自然なトランジション、明かりのコントラストのアンバランスさが上がりました。そこでこのチームは公園の照明マスタープランを作り、快適な色温度での統一、アイコニックな建物、彫刻などへの制御された照明でのライトアップなどが提案されました。
Team 5:Revolution地区は街の主要道路が交差する重要な場所。その中央に象徴的に立つ革命記念塔が青くライトアップされ、その近くに配置された噴水はLEDで七色に輝いています。その照明に対してはさまざまな議論がありましたが、結果的にはどちらも人を呼び込む魅力ある夜景を創出しているとして英雄となりました。犯罪者はまぶしく配光制御されていない街路灯や分別なくカラーライティングしているビルが選ばれていました。さらにこの通りがアイコニックなものとなるようにインパクトのある照明が提案されました。
Team 6: Reforma地区はビジネス、金融の中心地。ここで挙がった英雄は人との関係をうまくとっている照明。〝人の誇りや帰属性に配慮した照明”という言葉を使い具体例を挙げていました。犯罪者には植栽へのカラーライティングや器具むき出しの照明、グレアを指摘。チーム全員が改善案をスケッチし、発表していました。
2015年National Year of Lightの公式イベントの一つとなっている今回のフォーラムは、照明業界からの参加だけではなく、メキシコシティーの行政や文化局、メディアからも多く参加があり、長い歴史を持つメキシコシティーの歴史的価値をよく理解し、街をよりよいものにしたいという意識の高さを感じました。
実際にフィールドワークを体験しながら探偵団のコアメンバーと一緒にディスカッションをし、街へのプロポーザルを完成させた参加者の顔には満足そうな笑顔が見られました。
照明というフィルターを通してみると、いつもは気が付かなかった問題点や長所が浮かんできて、興奮する3日間でした、とコメントをくれる参加者がいたり、やっぱり問題が多かった、という参加者がいたりと、さまざまな感想が聞かれましたが、このよううな光の体験を継続していってもらいたいと思っています。
今回各チームから提案されたいくつものプロポーザルを、近い将来実際に目にすることを楽しみにしています。(東悟子)