テーマ:デザイナーのセルフプロモーション
Interviewer: 安齋 雄一
安齋:本日はデザイナーとして経験の浅い私の悩みと言いますか、自分に足りないものとしてセルフプロモーションについてお話を伺いたいと思います。
NY留学中、日々のプレゼンやまた就職活動において自分のアイディア、自分自身をアピールしなくてはいけない機会がありましたがうまくいかずに毎回苦労していました。語学力の問題もありますが、自信、相手への態度、話し方、適切に自分のことを伝える力が根本的に弱かったと思います。
セルフプロモーション能力はデザイナーとしてクライアントから新たな仕事を頂くため、また共に働く方から信頼を得るために必要だと思いますが、面出さんは就職前、新人時代、またはLPA設立当初、その点で力を入れられた、苦労されたという経験はありますか。
面出:僕は、これみよがしな売り込みは好きではないし得意でもない。いい仕事をしたいと思っていた。LPA設立時は前職で様々な建築家とも仕事をしていて、すでに下地があったからね。
自然体でのプロモーションが理想だよね。
デザイナーとして社会から評価されるようになるのはうまく売り込んだからでなく、いい結果を残したから。いい結果というのは、成果物だけでなくそこに至るプロセスも入っていて、例えば「あの時に面出さんと話して、あの言葉にほっとしてこれでいこうと思いました。」と言ってもらえることもあるわけだから、コミュニケーションなり一生懸命な態度も総合的に評価されるんだと思うよ。
安齋:面出さんは大学で教鞭をとられていましたが、学生に自分自身やアイディアの伝え方を教えられたことはありますか。
面出:武蔵野美術大学で10年間教えていた時、学生に3分間で自分をプレゼンテーションする課題を出したことがあるよ。その課題で学生は、聞いてもらう人対してどう表現すればいいのかを判断しなければならない。僕も、人を口説き落とさないといけないという時には、その人に対してあの手この手を戦略的に使う。でもそれはプレゼンテーションを成功させるための考え方で、一戦略だから。
安齋:デザインの仕事はクライアントあってのものなので、自分のアピールではなくクライアントの要望に応え、信頼を得られればいい結果が得られませんよね。
面出:もちろんその通り。
デザインの結果というのはデザイナーだけが作るのでなくて、クライアントや共同設計者、施工者もその品質に関わる。クライアントの希望や趣味嗜好もあるから、まずはそれを正確に把握する。
その上で僕たちにもデザイナーとしての経験や野心、革新的なアイディアなどもあるから、それも執拗に口説いていくことが大切だ。
デザイナーのプロモーションは、最終的にはその人の人間性、個性だと思うよ。そういうのが基盤になって、いろんなテクニックが付いてくる。表面的な技術論だけだと非常に浅いデザイナーになってしまうよね。
安齋:少し話が変わりますが、私の照明デザイナーとしての自信はまだ皆無です。
その影響か非常に慎重で、今は石橋を叩きすぎて壊している状態かもしれません。
自信は経験を積んで徐々につけていくものだと思いますが、面出さんの新人時代はどうでしたか。
面出:僕は子供の頃から空威張りでも自信がある。楽観的なんだ、基本的に。悲観的には考えない。長距離走がダメなら短距離走がある。100mで人より早く走れないのであれば、50mだったらいけるかもしれない、とういうようにね。
安齋さんも時間はかかるかもしれないけど、自分を褒めて空威張りしていくしかないと思う。精進して少しずつ筋肉をつけていき、自分で自分を褒める。そうすると自信が付き余裕も出てくる。
安齋:デザイナーとして自分をどうアピールするかでなはく、どうすれば自信を付けられるのかを考え、精進していくのが大切なのですね。
面出:私はどうやったらスマートでかっこよくなるか、といつも考える。それは見た目だけでなく所作とか、言葉使いとか。いろいろと周りも見て「この人いいな、この人のここを真似したいな。」と思うと自然に真似するんだよ。自分でも、「あっ、伊東豊雄さん、原広司さんの真似しちゃったな。」と思うこともある。毎朝うちの近くのスズメやムクドリに会うんだけど、なかなかいい飛び跳ね方をしていて、自分もできないかと思ったりもするね。
安齋:どのように飛ぶんですか?
面出:チョンチョンチョンチョンって軽やかに弾んで、時々彼等と目があったりするね。それはたわいもないことだけど、周りから自分の所作を学んでいる。自分がいいな、真似したいなと思うことは自分の美意識だから。いつも努力しながら私なりにかっこつけている訳ですよ。それは何のためかというと自分らしくありたいから。それが結果的にクライアントに対してのプロモーションにもなっていくと思うよ。
安齋:完全に悩み相談になってしまいましたね。
私もデザイナーとして少しずつ筋肉をつけていきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。