世界都市調査 in Italy
2014.02.01-02.11 藤本佳音+ 坂野真弓
世界中の旅行者を惹きつけてやまないイタリア。主要3 都市(Rome・Milan・Firenze)+ 小都市2 都市(Bergamo・Siena)を巡り、それぞれの地で街の光、歴史的建造物への光、また新しい建築への光の違いを探る。
時代の語り部たちを照らし出す
ローマの街は異なる時代の建築が同居する、まるで歴史の筋道を映す鏡のようだった。1900 年もの間建っている「コロッセオ」や「パンテオン」、19 世紀半ばに完成した「ベネチア宮殿」、2010 年に竣工したばかりのザハの美術館「MAXXI」。その時代時代の建築様式が混在している。
イタリアはあまり照明デザインがしっかり行われている印象はなく、どの建物もフラットライトで照らしてあるだけだった。それでも故意か偶然か、そことなく建物の持っている息遣いを荒削りなりに照らし出しているように思えた。たとえば、真っ白な大理石を惜しみなく使った「ベネチア宮殿」は、19 世紀中ごろにイタリア統一の立役者の偉業を讃えて建てられた。その建物には白色のメタハラのフラッドライトが均一に当てられている。いかにも芸のない手法ではあるが、この建物の場合は、幾つかのレイヤーから構成される建築をシンプルにかつ効率よく照らし出している。また下からフラッドライトを使うことで建物が持つスケール感が出ているように思えた。なによりも白い大理石が映える白いメタハラの光がピュアなイメージを作り出す。
ただ、デザインの観点からすれば、両側の柱や建物上部の装飾部に極め細やかな光を配置して、建物の凹凸や細部の装飾をもっと照らしたいところだ。
コロッセオは、アールの開口部に黄色味の強い色を選び、周りの鉛直面を照らす白いフラッドライトとコントラストを作る。破損した建築の形と相まって、なにか少しおどろおどろしい。それも歴史の中でその建物が背負ってきた歴史となにか噛みあっている気がしてならない。照明には建築の外観はもちろん、建築がもつ時代背景や印象をも照らし出す力がある。イタリアで見た光は、照明デザインの観点から見れば、ディテールに凝らない荒削りの光ではあったが、光が持つ不思議な魅力を改めて気づかされた。建築はその時代を語り、そして夜に照明は語り部たちを舞台へといざなう。(藤本佳音)
夜は少し怖い、コロッセオの照明
バチカン市国、サン・ピエトロ大聖堂
2010 年に竣工した国立21世紀美術館(MAXXI)
ミラノのドォーモから考える宗教と光
イタリア調査で強く感じたのは、宗教と権力と建築が強く結びついている点だ。ローマ帝国、バチカン、メディチ家…。それぞれの時代で、権力を象徴する歴史的建造物がいくつも建てられ、現存している。ミラノのドォーモもそんな建築物のひとつである。間口66m、奥行き157m、高さ108m のこの巨大な大聖堂は、約500 年もの年月を経て完成した。ファサードは総白大理石で、世界最大のゴシック建築と言われている。
夜の大聖堂はというと、ポールや、周囲の建物からの放電灯フラッドライトで照らされ、巨大な白いボリュームが浮かびあがっていた。ところどころエイミングが変わってしまったのか、ファサードへのフラッドライトがまだらになっていたのが残念だ。一方、屋上へあがると、無数の尖塔が細かく照らされていることに気付く。光源は尖塔のディテールに隠れるようについている3000K のLED スポットで、建築を細かく丁寧に照らしあげていた。
ドォーモ内部は、ファサードとは打って変わり、5000K の昼白色のフラッドライトが高さ40m から照らしていた。床面で約50lx。絵画や彫刻などは3000K の光で照らしていたが、なぜ5000K の昼白色を選んだのだろう?昼白色を使いながら、低照度の空間は、あまり居心地の良い空間ではないように感じた。
もしかしたら、白い光が降り注ぐ様子から、偉大な存在を表したかったのかもしれない。その他調査した各都市で訪れたたくさんの大聖堂や教会。そのほとんどは3000K 以下の光源を使っていた。供えられたろうそくの炎が揺れ、静かに祈りを捧げる人たちー。真冬のイタリアの調査だったが、教会に一歩足を踏み入れると、暖かな光が、一旅行者の私たちを迎え入れてくれた。教会は現代でもたくさんの人の心の拠り所として、静かにそしてしっかりとイタリアの土地に根付いていた。(坂野真弓)
ドゥオーモ内部の白いベースライト
キオスクの3000K があたたかく見える
広場からドォーモとヴィットーリオ・エマヌエーレ2 世のガレリアを望む広場の床面照度は50 ~ 100lx と明るい
ドォーモ屋上から見る対岸の建物からのフラッドライト
屋上ではLED 光源の照明が細かく使われていた
サンタ・マリア・デレ・グラツィエ教会
中世の町並みが残る小都市、ベルガモ
ベルガモ・アルタの町並み
ミラノから電車で1 時間、ロンバルディア州の中で最も美しい街と呼ばれるベルガモを訪れた。旧市街である「ベルガモ・アルタ」へは、ベルガモ駅からバスとフニコラーレと呼ばれるケーブルカーを乗り継いでいく。降りた先の景色はまさに頭に思い描いていた中世の町並みそのもの。でこぼこの石畳の道に、えんじ色の屋根、道の両側の建物の高さは統一され、1 階のレストランからの美味しそうな匂いが食欲をそそる。天気はいまいちだが、町を探索していると、歴史の1 ページに迷い込んだような気にさえなってくる。
丘の上の旧市街と新市街をつなぐフニコラーレ
町の中心、ヴェッキア広場。中世にタイムスリップしたかのよう
サンタ・マリア・マッジョーレ教会のミサ。やわらかな光の中で、信徒の歌が響く
教会の断面スケッチ
ベルガモの町で一番印象に残ったのは、サンタ・マリア・マッジョーレ教会だ。
デイライトと間接照明に浮かび上がる教会の内部は、思わず息をのむほど幻想的だった。私が教会を訪れたのはちょうど日曜日のミサの最中。信徒の厳かな歌声が静かに響き、いっそう神秘的な雰囲気を作り出していた。デイライトというと、建物の屋根に設置されるトップライト(天窓)のイメージが強かった。しかし、イタリアの教会の多くがドーム天井の下部にある大きな窓から光を取り込み、壁やドーム天井に反射させ、やわらかな間接光を作り出している。やわらかな光に照らされた祭壇は、ただただ美しく、訪れる者の心を洗う。
楽しみにしていたベルガモの夜の景色だが、あいにくの天候により市民の塔から見下ろす町は冷たい雨と濃霧の中ー。高所撮影をあきらめ、塔から降りたところ、霧靄に包まれる幻想的な教会に出会うことができた。
(坂野真弓)
ラジョーネ宮より教会、礼拝堂を望む
サンタ・マリア・マッジョーレ教会(左)コッレオーニ礼拝堂(右)
コッレオーニ礼拝堂は、複雑な彫刻が施されている
ミラノの街並みと光環境
ミラノ調査は意外にも今回が初めて。ローマに次ぐ大都市で、ミラノ・コレクションで知られるように、ファッションの街とてあまりにも有名だ。そんなミラノの街並みだが、石畳の道路や古い建物が多く残り、上品で落ち着いた印象を受ける。デコラティブなポール灯や、カテナリー照明によって、夜の街が照らし出されていた。一般的なカテナリー照明はナトリウム灯あるいは3000K のメタハラが使われており、夜になると街全体が暖かな色に姿を変える。路面照度は10~50lx と、充分な明るさが確保されていた。
街角には様々なランドマークが点在し、夜になってもライトアップされた建物を訪れる観光客が絶えない。そのほとんどにメタハラを始めとする従来光源が使われ、鉛直面を広範囲に照らしている。一見ランドマークとしてきれいに照らされているように見えるが、グレアへの配慮はなく、視点を変えるとかなり眩しい障害物となっていた。
歌劇場スカラ座の夜景。フラッドライトがふんわり外観を照らしていた
ミラノ中央駅
空港や欧州の大都市を結ぶ発着駅であるミラノ中央駅。白い荘厳な建築が旅行者や通勤者を出迎えている。朝の8 時を過ぎたロビー構内には、たくさんの人々が行き来していた。天高約25mの上から、フィルター越しに優しい朝日が降り注ぎ、床面照度は140lx。とても気持ちが良く、通り過ぎるだけではもったいない空間であった。
ミラノ中央駅ロビー断面(左)と朝のロビー風景
ミラノ中央駅ロビー断面(左)と朝のロビー風景ヴィットーリオ・エマヌエーレ2 世のガッレリア。壁面のブラケットが主な光源だが、床面は平均で100lux と明るい
ガッレリア正面。画面左のフラッドライトは、ドォーモを照らす
朝のミラノ中央駅
夜のスフォルツェスコ城。ダウンライトが石壁の陰影を作り出す
右手前のポール灯から照らされているガリバルディ門
反対側から見ると、ポール灯のグレアがまぶしい