世界都市照明調査

都市照明調査:サウジアラビア、リヤド

Update:

ディルイーヤ、KAFDとリヤドの地下鉄駅
2025.11.16 – 11.18 Gita Listia

今回のリヤド照明調査では、旧市街とKAFDの新開発エリアの特性を、特に歴史地区ビジネスエリア、メトロ駅に焦点を当てて探っていった。公共空間の照明を通じて各エリアがどのようにアイデンティティを表現しているか、またメトロ駅のような主要インフラにおいて、照明戦略がどのように反映されているかを紐解いていく。

歴史の重みを静かに照らし出す、リヤド、ツライフ地区の夜景

■ディルイーヤ

素材の質感とスケール、連続性を際立たせるツライフ地区の照明計画

ディルイーヤはリヤドの北西に位置する歴史地区であり、サウジアラビアで最も重要な文化遺産のひとつ。リヤド中心部から約15km、ハニファ渓谷沿いに位置し、この街の初期の歴史を今に伝えている。現在、ディルイーヤでは歴史遺産の継承と現代的な都市デザインを巧みに融合させ、活気ある文化・ライフスタイルの拠点としての開発が進められている。

ディルイーヤの照明は、歴史的景観に配慮した控えめな設計が特徴である。ナジュド様式の日干しレンガ建築を引き立てるため、非常に温かみのあるホワイト系の光が採用されており、穏やかで心地よい夜間景観を作り出している。また、ここに設置されているポール灯やボラードは、リヤド市内の一般的な街路灯とは異なり、独特の形状やパターン、そしてより低い色温度を備えている。こうした伝統的な照明の個性が、訪れる人々に対して、ここが歴史と文化の特別な場所であることを鮮明に印象付けている。

壁面照射が引き立てる土壁の量感と豊かな風合い

■ツライフ地区

ツライフはサウジアラビアの歴史の誕生の地であり、ディルイーヤの文化的な核となっている。ユネスコの世界遺産にも登録されているこの地区の照明は、極めて抑制されており、保存を最優先とした設計がなされているようだ。

建物の質感や奥行き、造形を優しく浮かび上がらせるため、ソフトなグレージングやウォールウォッシュの技法が用いられている。また、ナジュド様式の日干しレンガが持つ自然な色合いに合わせて非常に温かみのある光が採用されており、照度は意図的に低く抑えられている。この手法によって、その場が持つ本来の夜の雰囲気が保たれ、歴史的な構造物が光に埋もれることなく、主役として際立っている。

■ブジャイリ

ブジャイリ(通称ブジャイリ・テラス)は、ディルイーヤ内にある歴史遺産とライフスタイルが融合したエリアで、歴史地区ツライフに隣接している。ここは人々が集まって食事や散策、交流を楽しみながら、ディルイーヤの情緒を満喫できる活気ある公共空間として機能している。

このエリアの照明は、空間全体を一様に明るく照らし出すのではなく、壁面や素材の質感、アーチ、塔などを優しく照らし、アクセントを加えることでその造形を浮かび上がらせている。一部のファサードにはプロジェクターが活用されており、特に装飾のない平坦な日干しレンガの壁面に視覚的な変化を与えている。これにより、温かみのある人間味豊かなスケール感を保ちつつ、よりインタラクティブな体験を生み出している。

■KAFD(キング・アブドラ・ファイナンシャル・ディストリクト)

ビルが林立するKAFDの中心、リヤド最高層 PIFタワーの夜景

AFDの建築は純粋なサルマニ様式ではないものの、その設計原理に影響を受け、現代的かつ国際的なデザイン言語へと昇華されている。サルマニ様式は、地域のアイデンティティや人間味のあるスケール感、幾何学的な秩序、そして重厚感を重視する。ナジュド様式の建築的価値を単に模倣するのではなく、現代的に再解釈しているのが特徴だ。その結果、KAFDの建物の多くは、透明感よりも重厚感を感じさせる力強い幾何学的形態や明確な量感を備えている。ファサードも平坦なガラスのカーテンウォールではなく、スクリーンやフィン、パターンを多用して奥行きを持たせている。全体として、KAFDは土着的・歴史的というよりは、未来的でグローバルな都市イメージを体現している。

KAFDはリヤド北部に位置する大規模なビジネス・金融拠点。オフィス、ホテル、住宅、商業施設、そして公共空間が一体となった現代的な高密度都市として設計されている。世界的建築家たちが手がけた未来的かつ幾何学的な建築群は、KAFDの大きな特徴となっている。

日照計画もまた重要な要素である。建物の多くは、室内の奥深くまで自然光を取り込めるよう計画されている。キャノピーやオーバーハング、コロネード、ポディウムといったファサード要素は、リヤドの過酷な気候において、直射日光を遮りつつ柔らかな光を採り入れるための欠かせない工夫となっている。また、多くの建物でガラスと金属のファサードに遮光フィンやスクリーン、フリットガラスを採用し、眩しさや熱を抑えながら採光を最大化している。こうした建築表現に加え、KAFDは地区全体および主要な建物において、LEEDプラチナ認証を取得した持続可能な街でもある。

光と影の調和が描き出す、夜間のアル・ワディ地区

都市の回遊性も大きな特徴だ。建物間は広大なブリッジ網で結ばれており、それぞれが固有のカラー照明で彩られている。このカラー照明は地区内の各ゾーンと連動しており、誘導の役割や空間のアイデンティティ形成を支えている。
KAFDの照明は、ディルイーヤのような歴史地区と比較すると、より現代的で表現力豊かである。一般的には、ニュートラルから寒色系のホワイトトーンが選ばれ、高い照度とドラマチックな演出照明によって建築造形を強調している。祝祭時や特別なイベントでは、カラー照明も導入される。一部の建物では投光器(フラッドライト)が使用されているほか、ファサードの目地やフィン、エッジ部分にライン照明を組み込み、幾何学的なリズムを際立たせている。

公共空間においては、ポール灯、ボラード、手すり照明、ファサードからの漏れ光、樹木のアップライト、そしてアクセント照明を層状に組み合わせる「レイヤード・アプローチ」が採られている。これにより、視覚的な奥行きとヒエラルキーが生まれ、ダイナミックな夜間環境が創出されている。

KAFDの俯瞰夜景
夜に際立つその構造美とリズムを強調する、KAFDメトロ駅のファサード照明

■リヤドのメトロ駅

今回の照明調査は、リヤド・メトロのブルーライン沿いで実施した。調査対象としたのは、標準的な駅デザインを採用しているKing Fahd Libraryメトロ駅に加え、国際的に著名な建築家が手がけた、KAFDメトロ駅(Zaha Hadid Architects)、オラヤ・メトロ駅(Gerber Architekten)、そしてカスール・アル・ホクム駅(Snøhetta)の計4駅。

メトロ駅全体の照明計画を俯瞰すると、かなり均質な印象を受ける。プラットホームの乗降エリア直上や改札口付近といった、特定のエリアごとに照明を厳格に使い分けるような手法は見られない。代わりに、空間全体に光を均等に配置することで、視認性の確保と乗客のスムーズな移動を優先させているようだ。

色温度に関しては、ホワイト系の光と温かみのある暖色系の光が組み合わされている。主に全般照明としてホワイト系の光を用いることで、明快さと安全性を担保する一方で、特徴的な壁面や建築要素の周辺には暖色系のトーンを配し、空間の雰囲気を高める工夫がなされている。

■まとめ

ディルイーヤ、KAFD、そしてリヤド・メトロの各駅は、リヤドという都市においてそれぞれが担う役割や文化的背景を反映した、個性豊かな夜間景観を形成していた。

ディルイーヤでは、歴史的な個性を守り、落ち着きのある夜間空間を作り出すために、低照度で歴史景観に配慮した温かみのある照明が徹底されている。対照的にKAFDでは、現代的な照明戦略が採られており、高めの照度とニュートラルから寒色寄りのトーンを用いることで、近代建築の造形美と都市としての明快さを強調している。ブルーライン沿いのリヤド・メトロ駅においては、より均質な照明手法が一貫して用いられており、能性や安全性、そして乗客の円滑な移動が最優先されている。

今回の調査を通じて、リヤドの多様な都市文脈において、照明が「歴史」「現代性」「インフラ」を体現するための重要なデザインツールとして機能している様子が鮮明に見て取れた。 (Gita Listia)

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