世界都市照明調査

都市照明調査:中国 深圳

Update:

2025.09.12 & 09.18 林 虎 + 林 晃毅 + 蒋 坤志

深圳はおよそ45年で辺境の町からハイテク都市へと発展し、その大胆で持続可能な都市照明計画は国内でも際立っている。
今回は2日間で、3つのCBD(Central Business District)における夜景パターン、福田にあるメディアファサード、そして新たに開業した崗廈北駅の機能的な照明デザインを調査した。

歴史の厚い中国の古都とは異なり、もともと地方の小さな町にすぎなかった深圳。わずか45年ほどでハイテクの現代的な大都市へと成長した。独自の立法権を持つことから、深圳の都市計画は 先進的で大胆で、中国の他都市だけでなく海外の都市の手本となることも多い。

都市照明の分野でも、深圳は中国国内のトップランナーといえる。夜景デザインは大胆で革新的な一方で、生態系保護や光害対策に関する独自の規制も整備しており、持続可能性への明確な姿勢がうかがえる。しかし、それでも一部の照明プロジェクトについては、エネルギー消費や光害、公共資源の使い方をめぐって社会的な議論が起きることがあるようだ。

深圳の現在の夜景をより深く理解するため、深圳オフィスのチームは、次の3つのテーマに重点を置いて調査した。

“サイバー・パンク” と呼ばれる福田区の夜景
  1. CBD の3つの主要エリア(羅湖・福田・南山)における夜景の全体的なパターン
  2. 福田区におけるメディアファサードが、都市の夜景や公共空間に果たす役割
  3. 新たに建設された公共建築の夜間照明パフォーマンスとその影響

1. CBDの3つの主要エリアの夜景
福田にある平安金融センターの540mの高さにあるの展望台を訪れ、夜の都市のスケール感とレイアウトを俯瞰した。東側の羅湖方面を見ると、新旧の高層ビルが混在するスカイラインが広がり、深圳の商業的な歩みを物語っていた。ここでは過剰な装飾ではなく、既存の照明を活かしながら 外観演出の方向性を整えることに重点を置いている。

都市の計画軸は市民センターを通り北から南へと伸びており、行政の中核である福田には広場や公園、高層ビル群が整然と配置されている。これらのタワー群は意図的にメディアファサードのゾーンを形成している。同時に、メインストリートの両側には、磯崎新が設計した深圳図書館・コンサートホールや、Coop Himmelb(l)auが手がけた深圳現代美術館・都市計画館といった主要な公共建築が立ち並ぶ。

西側に見えるのは南山。ここはハイテクや重工業が集まるエリアで、多くの高層ビルの室内照明が点灯している。深圳湾公園も南山の夜景に彩りを添えている。ポイントは、深圳の照明マスタープランは、渡り鳥の通り道や湿地帯などの生態系区域の周辺において照明に厳しい制限が設けられているという点。一部のアップライトや光漏れ制御のない照明器具、レーザー、メディアファサードは規制対象となり、渡り鳥の季節には動きのある演出照明が制限されたり、消灯されることもある。

主要幹線道路から見たメディアファサード

2. 福田区のメディアファサード
福田区のメディアファサードは、都市管理局によって中央で計画・管理されている。主要な建物と連動して配置されることで、統一感のあるリズミカルな夜景を作っている。普段は流星群のような穏やかで上品なアニメーションが表示されることが多く、華美になりすぎず洗練された印象を与えている。また祭りやイベントの際には、特別なコンテンツを映し出し、都市全体で動きのあるビジュアルを演出する。近年では、ドローンによるライトショーも夜景の一部となり、多くの市民を惹きつけている。
SNS上では、福田区の夜景はよく「サイバーパンク」と称される。未来的な照明が都市に先進的な雰囲気をもたらす一方、激しい変化のある照明は光害やエネルギー消費を増やすとして、一部の住民からは批判の声も上がっている。住民の生活環境において本当にメリットがあるのか、疑問視する意見も見られるようだ。

3. 新しい公共建築– 崗廈北駅
また、新たに深圳の地下鉄の主要な乗換拠点となった崗廈北駅も調査した。駅舎には「深圳アイ」と呼ばれる吹き抜けがあり、昼間は自然光を取り込んでいる。夜間は照明で演出され、上から差し込む光の印象を夜間も駅内で再現している。主要なエリアの照度を測定した結果、デザインは現代的で機能的な印象を与えるものの、派手な見せ場に頼ることはなく、むしろ通勤や日常利用に適した、実用性重視の夜景であることが分かる。

■ まとめ
今回は、メディアファサードが集中する深圳の中心エリアの光環境を調査した。
ストリートレベルで見ると、大規模メディアの映像は判読しにくいものの、その光の迫力は強烈だ。一方そのきらびやかさとは裏腹に、反射光が住宅地にまで拡散する問題や、ビル全体をメディア化することで建築の美観が損なわれる事例も。
SNSの影響により、深圳の住民は夜景の受動的な受け手ではなくなり、質の悪い照明に対する不満や問題点を積極的に発信する傾向も見られる。
都市の最も直接的な利用者である市民の意見がボトムアップで光環境に影響を与え、派手なライトショーや巨大広告に依存するのではなく、綿密な計画とデザインを通じて「真に快適で、人に配慮した」光環境が構築されることを期待したい。(林 晃毅)

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