世界都市照明調査

東京調査 下北沢

2022.10.27 渡邊元樹+ 劉伝熠+ 伊藤佑樹 

今回の東京調査は、若者に人気の下北沢。東京で最も文化的な街の一つとして、 古着店、飲食店、劇場、ニッチな映画館やアートギャラリーなどが連立する街である。照明探偵団が2009 年に行った下北沢の調査から、小田急線埋設により、街がどのように変化したか、また2022 年5 月28 日に開業した「下北線路街」を調査し、新エリアの照明計画を吟味すると同時に、古くからの商店街とも比較してその差異を探究した。

空き地をReload から撮影

下北沢駅周辺地図
小田急線の地下化に伴い、東北沢駅~世田谷代田駅の間に新しい街【下北線路街】が開発され、まちを支援するという思いから、地域住民の声を聞きながら再開発を順次進め、2022 年5 月28 日に全面開業した。 線路沿いには、保幼園、温泉旅館、商業施設、学生寮、イベントスペースなどが新設された。

開発が進む下北沢駅前広場

■下北線路街開発
今回調査した下北線路街は、小田急線の地下化により生まれたスペースに新しく開発されたエリア。今まで線路で分断されていた南北エリアを繋げたいという思いも込められており、随所に回遊性の生まれるような開発が行われている。
緑地化された広場エリア、テントやフードトラックなどで構成された仮設エリア、また新しく建てられた商業施設が連なるエリアといった多種多様な計画が行われている。特色が異なるエリアごとにどのような計画が行われているかに着目し調査を進めた。

カテナリー照明を用いた再開発エリア『空き地』

■空き地
 東口を出て東北沢方面へ向かうとまず『空き地』と呼ばれる開発エリア。このエリアはテント/ コンテナ/ フードトラックといった要素で構成され、仮設の空間となっている。空間全体はカテナリー照明と店舗からの漏れ光のみとい
ったシンプルな光環境。色温度は2400K の光を使っており心地良い明るさ感を作り出している。敢えて簡素な造りにしているのかもしれないが、開発エリアと呼ぶには簡易的すぎる印象を受けた。しかし簡素な空間であるが故に今後
様々な空間への展開が行われる可能性もあるように感じた。
 空き地エリアは従来の下北沢の街中にぽつりと佇むように存在している。全体的に落ち着いた雰囲気を持つ古い町並みと、新しく計画され初々しさを放つ再開発エリアの景観が隣り合う景色はとても複雑であり、かつ今後の新しい下北沢の風景でもあるように感じた。

商行施設Reloard に面する通り

■ Reload
 空地エリアを更に北西へ進むと、次は店舗が立ち並ぶ商業施設『Reload』に続く。Reload内にはポップアップストア、お香専門店、立ち飲み屋、古着屋や理髪店など、下北らしい形態の店舗が入っている。施設の要所には吹き抜け
空間が設けてあり、それぞれ1、2 階の店舗前スペースにはテラス席が設けられ屋外での回遊性が自然と生まれるような計画がされている。
Reload の照明は主に空地エリアと同じくカテナリー照明と店舗からの漏れ光で構成されている。カテナリー照明でほんのりと照らされた床面照度は20lx となっており、程よい明るさ感を演出している。Reload の印象は、周りに影響を
与えず単一で完結している空間であるが、一方で閉ざされた印象にも受け取れる。多くの年代の方に興味をもってもらえる店舗が多くあるが、Reload 内への誘導性が少し足りない気もした。
外への余分な光を出さないことは素晴らしいが、もう少し中へ誘導するような照明計画が施されていると、よりReload エリアでの回遊性が生まれるように感じた。

Reload 断面スケッチ
駅構内/飲食店

■ NANSEI PLUS・シモキタエキウエ
 駅自体やその周りのエリアも開発されており、駅舎2 階には雑貨屋や飲食店が立ち並ぶシモキタエキウエ、南西口をでるとシアター・カフェ・ギャラリーなどが併設されたNASEI PLUS が広がる。シモキタウエは駅舎内の空間であるため隣接するNANSEIPLUS と比較すると、明るい(色温度3000K、照度300lx)空間となっている。一方でNANSEI PLUS エリアは色温度2700K の光が使われており、全体的に落ち着いた光環境となっている。各所に設置されたス
タンドライトのデザインにも細かな配慮が見受けられ、光源を筒状のフードで覆い床面だけに光を落とす形状となっており、歩行者の目に直接光が届かないようデザインされていた。隣り合う両エリアで少し光環境にギャップを感じたが、駅舎という明るさを確保する必要がある空間と商業施設と併せた照明計画を行うのは難しいところである。         (伊藤佑樹)

下北沢南口商店街
商業エリアと駅舎での色温度の違いが分かる
ののはら広場に設営されたバスの書店

■ののはら
 NANSEIPLUS を出て、緑地帯の遊歩道を歩いていくと、家族や学生らが多く集まる『ののはら』に入る。ここは他の下北沢のショッピングエリアに比べ全体の色温度が低く、商業施設も少ないので、より温かみを感じさせ、心地よ
い空間になっている。『ののはら』にはバスを仮設書店にしているものがあり、その裏には下北沢園芸部もあり、昼間子ども達が多く集まってくる。広場内の植物はきちんと計画された照明で照らされておらず、夜間は書店の光が目に入るが、色温度を統一している為通りの静かな雰囲気によく合い、好印象だった。 
 個人的な印象としては最初は今回行われた再開発は従来の下北沢の街並みと乖離しているようには感じた。しかし調査を終え考察していく上で、今後空地/Reload エリアを皮切りに従来の下北沢の街並みと再開発後の街並みとが馴染んでいき、新たなる下北沢の景観を作り上げていくのではないかとも感じた。   (劉伝熠)

駅東側にある本多劇場エリア。古くからの商店が並ぶ
茶沢通り沿いの古書店ビビビ

■変わる街
 調査する中で老若男女様々な層の人が下北沢に訪れていた事、また新しく開発された下北線路街を中心に人の回遊性があることを感じた。2013 年に駅の北と南を遮断していた地上線路は地下に移され、街にはこれまでになかった人
の導線が生まれた。今回新しくオープンした『空き地』や『Reload』などの商業施設ではポップアップストアなど多く出店し、簡素化された空間に自由度や仮設性を持たせる事で決まったエリアに人が長期集中して滞留することを避けているように感じた。これに沿うように照明計画は色温度、光源の位置など基本的なルールを定め且つ照明器具が極力目立たないようにし、人の導線を作るのに一役かっていた。人を集め留まらせる事ではなく動かすことで街を活性化しようとする試みは、下北沢の街が持つ色合いや特色を単一企業や自治体による開発で上書きするのでなく下北沢で生活する人訪れる人に今後の街づくりの方向性を託されているようで、地元民の街への愛着や思いを大切にしているように感じた。     (渡邊元樹)

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