世界都市照明調査

国内都市照明調査 神戸

2023.01.18-01.20  本多由実 + 中村美寿々 

メリケンパーク対岸、「第一突堤」からのハーバービュー。
残念ながら改修中のポートタワーでは、仮囲いへのプロジェクションが行われている。

「1000 万ドルの夜景」としての六甲山からの夜景と、港町としての水辺の夜景が有名な神戸。2012 年には夜間景観ガイドラインが策定され、街なかの照明整備の取り組みも積極的に行われている。今なおアップデートを続ける街を歩きまわり、神戸らしい夜景の構成要素を探った。

平日夜でも人が居ない隙に撮るのが難しいほど混みあっていたBE KOBE モニュメント
ポートタワーの仮囲いへのプロジェクションマッピングに呼応するように、海洋博物館や噴水への照明もカラーチェンジの演出が行われ、エンターテイメント性を高めていた。

■「映え」の夜景
ポートタワー、海洋博物館、オリエンタルホテルにホテルオークラ、観覧車に遊覧船、そして「BE KOBE」のモニュメント…。神戸の街をイメージするとき、多くの人がこのメリケンパークの景色を思い浮かべるのではないだろうか。神戸の顔となっているメリケンパークでは、夜になっても多くの人が訪れ、記念写真を撮っていた。公園内の象徴的なモニュメントは多くがライトアップされ、カラーライティングが多用されていたが、原色ではない中間色を主体とした色味と配色が用いられていたため、どぎつい印象を受けることなくカラフルな光を楽しむことができて好ましかった。それらのカラーライティングを引き立たせるように、ポール灯や手すり照明やボラード照明の地明かりは電球色で統一され、落ち着いた明るさとなっている。演出照明と機能的な照明のいずれも、過剰なグレアを発するものは少なく、ライトアップされた対象物に集中することができた。夜景を見ること、そしてその夜景の写真を撮ること、が訪れる目的になり得ている場所だと感じた。息をするようにinstagram やTikTok に大量の写真や動画がアップされる時代、「映え」は誰もが日常的に意識する当たり前の概念になった。メリケンパークの夜景は、そんな私たちの「すてきな夜景フォトを撮りたい!」という高揚感に完璧に応えてくれる。BE KOBE の前など、フォトジェニックな写真が撮れるスポットでは、足元に、「ここから撮るのがおすすめ」のマークが何か所か貼られていた。そこに立ってカメラを向けると、前景から背景に至るライトアップ、その先の海面に映る光まで、ザ神戸!な夜景が画角に納まる。訪れた人々が互いに写真を撮りあったり自撮りしたりと、楽しそうに過ごしているのが印象的だった。

ハーバーランドから見たメリケンパーク。凪いだ海に映り込む光が華やか。

フォトジェニックな景観を見せるため、撮影ポイントとなる視点場の整備も意識的に行われているようだ。神戸市の観光マップでは、すぐ対岸の「第一突堤」や神戸大橋を渡った「ポートアイランド北公園」などのおすすめ撮影ポイントがラインナップされていた。ただ、行ってみると、メリケンパークやハーバーランドのにぎわいに比べ、昼も夜もほとんど人が居ない。いずれも、水面に光が映り込む海辺の夜景をパノラマで楽しめる穴場スポットだったが、まだ売り出し中という印象である。遠くの視点場から海沿いの夜景を見ると、背景となる山並みにシンボルのロゴが光っていることに気づく。これらのロゴは、まちなかを歩いているときにはメインストリート突き当りのアイストップとなる配置だった。神戸の夜景はすみずみまで、「見られること」が計算されている。( 中村美寿々)

第一突堤。市街地の背景には山の稜線が見えてくる。

■神戸イメージをつくる街なかの光
水辺の景色の他に、神戸のイメージとしてよくあがるのは「異国情緒があり洗練されたお洒落な港町」である。照明要素としては電球色、街灯の意匠、は手堅いが、都会的な神戸には何かさりげない工夫があるに違いない。三宮~元町の夜を歩き回り調査した。

印象的に照らされた神戸大橋を近くで見ることができるポートアイランド北公園。迫力ある橋のライトアップに連なる水景が遠くに見える。
重厚な建物と相まって、落ち着いた夜の印象の旧居留地グローブ球の煌めきがアクセサリーのようにも見えた

■デザイン都市の光(フラワーロード)
新神戸駅から三宮駅を抜け海まで延びる主要道路、フラワーロード。大きな都市の駅前の例に漏れず、三宮駅周辺の街路は白く煌々と明るいが、市役所前から南側は街路全体が公園の一部の様な落ち着いた雰囲気になる。「夜間景観実施計画」の策定直後、2015 年にいち早く整備されたエリアである。車道灯は幹線道路には珍しく電球色、控えめな照度設定で一瞬暗く感じられるが、柔らかく発光するポール灯や色とりどりの草花への照明が賑わいとなり視線を誘導する。色温度への配慮、グレアレス車道灯、鉛直面の輝度演出、RGB 制御など、夜間景観整備の基本を丁寧に反映して、上品で洗練された夜景を目指す意識が伝わってきた。2005 年の調査時には、「ただ暗い闇の塊」「昼間は気持ちが良い場所だからこそ、夜の寂しさが残念」と評されていた東遊園地は、冬の寒い夜でも散歩中に休憩をとっている市民の姿がみられ、「昼も夜も気持ちの良い場所」に生まれ変わっていた。

フラワーロードは電球色で落ち着いた雰囲気。沿道の草花や彫刻も丁寧に照らしている。歩道灯はRGB 光源で、光のミュージアムとして季節に合わせたカラー照明演出を行っている。調査日は春節のオレンジだった。

■異国情緒の光(旧居留地~南京町)
居留地、洋風文化、中華街、歴史の趣がある建築物…港町としての特徴は神戸も横浜も共通で、歴史建築物のライトアップ、中華風や洋風の意匠の街灯やランタン装飾など、街の特徴を引き立てる照明の整備は早々に手掛けられている。大正~昭和のレトロな近代建築が街並みを構成している旧居留地では、神戸市立博物館や神戸大丸の街区にはガス燈が設置されているが、意外にも他の街路は球形グローブの街灯が主である。クリアガラスのシェードで全方向からランプが見えるので、グレアにならないか気になったが、重厚な街並みのなかで煌めきのある光がアクセントとなり、また窓面積が少ない壁面に対して柔らかく光をあてるのに効果的である。南京町はランタンと赤い旗で春節の高揚感にあふれ、中華街のイメージ通り。ランタンが灯ることにより、個々の商店だけでなく街並み全体の夜景に視線が惹きつけられた。西洋風、中華風、とそれぞれ個性が強い街の境目は煩雑になりがちだが、北欧デザインの街灯を通りの真ん中に配することで、お洒落な港町の雰囲気にまとめられていた。

春節前の南京町。ナトリウム灯のオレンジ色の中でも赤いランタンや東屋の電球装飾が際立ち、賑やかな夜景を演出する
レトロなガス燈、モダンな街灯、どちらも神戸らしさをつくっている

■街の景色を継承する光
「神戸らしい」街なかを調査した後に北上して駅周辺に向かうと、色温度も照度もぐっと高くなり、色とりどりな広告や看板に視覚的な情報量が増えてゆく。繁華街らしい煩雑な様子から、他の地区ではいかに夜間景観ガイドラインが効力を持っていたか気づかされた。ガイドライン重点地区では、電球色、明暗のコントラスト弱め、輝度控えめで過剰な照明はまず排除されていた。駅前繁華街のなかで、三宮駅の周辺は再開発計画が進行中である。鉄道の三宮駅周辺は、都会の交通網という様相のみで、今まではメリケンパークに出てやっと「神戸だ」と感じていた。

しかし、阪神淡路大震災の前は駅が神戸の玄関として街のイメージをつくっていたのである。震災前の神戸のシンボル「神戸阪急ビル」の復興デザインが新たな神戸三宮阪急ビルで、レトロなアーチ窓意匠のファサードや石畳街路に、抑えめの色温度や照度が心地よい街路を作り上げている。

このように、神戸の町では、旧居留地の建物や神戸大丸など昔からあるような趣のある建物や街灯にも新たに再建されたものが混ざっている。最先端の照明技術や流行を取り入れるのは容易なはずだが、昔ながらの本物のガス燈が灯されている場所も多く目にした。都市部の歩道灯としてはささやかな明るさだが、ゆらめく小さな炎は温かみがあり、同時に夜の妖しさも想起させる。最先端のデザインへのアップデートばかりでは無く、街の特徴・記憶を踏襲することを重要視していること、また街並みをつくる要素として、街灯や光の要素も認識されていることがわかり、嬉しく思った。( 本多由実)

旧居留地、南京町、元町商店街の入り口が面する鯉川筋港町らしい歩道灯で雰囲気がまとまっている

ケーブルカーとロープウェイを乗り継いで上っていく、まやビューライン。山をひとつ超えると、いっきに視界が開ける。

■俯瞰するパノラマ
六甲山に連なる摩耶山、その一番高い位置にある掬星台展望台からは、神戸の市街地を視界の端に、大阪湾を囲む紀伊半島までがパノラマで見通せる。展望台に向かう「まやビューライン」は、日中よりも日が暮れた後のほうが満員となっていて、「展望台から臨む夜景」が、神戸の夜のアクティビティとして確立されているという人気を思わせた。掬星台から眺めると神戸の街明かりは少し遠く、ライトアップされている建物や通りを細かく判別することはできない。そのぶん、まぶしすぎる明かりや不均一な明かりを感じてしまうこともなく、大阪まで続く都会の明かりが非常に広範囲で見通せる、その光の量にただ圧倒される。札幌市の藻岩山からの夜景と、街明かりへの距離感が似ていると感じた。札幌では統一感のある街路灯の明かりが主体となっていたために整然とした煌めきが感じられたのに対し、神戸ではビルの窓明かりと沿岸部の工場地帯の照明によるそれぞれ異なる色味や強さの光で、街の営みがより伝わる感覚があった。また、神戸と同様に海の近くに斜面がせりたった地形を持つ長崎では、平地だけでなく斜面地にも住宅や生活道路が広がっていることで、斜面に明かりがある「立体的な夜景」となっているが、神戸では山並みにはほとんど光の要素がない。その代わり、平野部を見下ろすために適した視点場から、周囲の斜面に遮られずにパノラマが広がる「面的に散らばった夜景」を体感できる。まちなかに対してはガイドラインに沿ったきめこまやかな整備が行われているのに対し、大景観である海沿いの遠景と展望台からの俯瞰に対しては、何か追加の照明を整備するというより、地理的なポテンシャルをそのまま活用して視点場の整備に注力しているという印象だった。非常に効率的な整備方針のもと、街の顔となる美しい夜景が実現されていることを感じた。( 中村美寿々)

1月の夜の展望台は凍える寒さだったが、夜になればなるほど人が増えていた。展望デッキ周囲は非常に暗く、0.5lx あるかどうかという照度。それでも目が慣れてしまえば転ぶこともなく、夜景を楽しむには心地よい暗さだった。

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