世界都市照明調査

国内都市照明調査 岩国&宮島

2023.08.02 – 2023.08.04 本多由実+瀬川佐知子

今回の調査は「古来から続く船上のあかり」をテーマに行っている。約400 年前から行われている岩国、錦川の鵜飼。平安時代から行われている宮島の管絃祭。どちらも篝火や提灯を船上で用い、昔ながらのいでたちをできるだけ再現している。2 つの違うエリアで行われる水とあかりの事象、人々の関わりを調査してみた。

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鵜飼が行われる前の遊覧船。ゆったりとした時間が流れる

■岩国 古来からの漁法・鵜飼のあかり
山口県岩国市に流れる錦川では約400 年前から鵜飼が行われている。日本三名橋の1 つに数えられている錦帯橋のたもとから遊覧船に乗り、今でも鵜飼を楽しむことができる。訪れた日は真夏の平日ということもあり、昼間の人出はまばらだったが、夕刻になるとどこからか川岸に人が集まり、鵜飼の遊覧船に乗り込んでいく。夏の西日本は18 時でもまだまだ明るい。橋の上から遊覧船を見ると提灯が下がった船の中で楽しく宴会をしている様子が伺えた。少しずつ暗くなり錦帯橋のライトアップや川沿いの提灯が点灯される中、鵜飼タイムになるのをゆっくりと待っていた。

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清流・錦川で行われる鵜飼。古来からの姿にこだわり、現在でも木造の舟で行われる。山頂にはライトアップされた岩国城が見える
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公園側の川沿いは主に提灯の光で構成されている


休憩のため遊覧船が着岸したころにはすっかり日が暮れ、山頂の岩国城もライトアップされていた。いよいよ鵜飼タイムである。今度は陸上からでなく間近から見ようと私たちも遊覧船に乗り込んだ。錦帯橋はライトアップされているがそこまで煌々と照らされておらず、器具の経年劣化なのか一部光が緑がかっていた。川沿い4 箇所に約10m のポール灯があり放電灯のスポットライトが3 灯ずつ取り付けられていた。川沿いの道からの光はあまりなく、川面はほぼ真っ暗だった。少し上流に移動し待つと上流から篝火を焚きながら鵜匠と船頭が乗った鵜舟が2 艘下ってきた。舟の周りには手綱で繋がれたウミウが数羽泳ぎ、漁をしている。魚は川の中の岩かげに隠れていることが多いため、篝火を焚いて驚かし、出てきたところを鵜が捕まえる。鵜匠は漁の状況を見て薪(松割木)を篝火にくべたり、篝棒を廻したりする。舟が近づくと思っていた以上のスピードで進んでおり、篝火は揺れ火の粉が舞っていた。鵜匠は風折烏帽子を身につけ頭や眉毛を篝火から守っている。パフォーマンスとして遊覧船の周りを数周回って漁の様子を見せてくれるが、鵜や鵜匠たちの息遣いが聞こえてくるほど迫力があり、篝火も近づいてくると熱を感じるほどだった。舟が通ることにより立つ波に篝火のあかりが揺れうつり、とても幻想的なひと時であった。

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遊覧船の提灯にはろうそく型のLED が入っていた

■宮島 平安時代から続く壮大な祭のあかり
現在は観光地としてたくさんの人が訪れる広島県廿日市市にある宮島は鎌倉中期(1250年ごろ)まで人は住んでいなかった。そのため、厳島神社の諸行事には対岸、本州側にある地御前神社から往復して事にあたっていたらしい。世界遺産になった今の厳島神社はその姿はもちろん、今も祭りは海と強く結びつきがある。今回は管絃祭という平清盛がはじめたとされる祭りのあかりを調査した。この祭りは潮の満干が重要な要素のため、毎年必ず旧暦6 月17 日(今年は8 月3 日)に行われる。深夜まで行われるこの祭りは私たちの想像をはるかに超える壮大さだったが、潮の満干という自然相手だったり、広範囲で行われるため、いい意味でおおらかな側面もあった。昼過ぎに宮島入りした時にはすでに神輿が乗り込む御座船と漕船が大鳥居沖に停泊していた。16 時過ぎに厳島神社から担ぎ出された神輿が潮が引いた干潟から大鳥居をくぐり、御座船に乗り込むのを見届けると急いで乗船場へと走り、観光船にて海上の祭りを追いかけた。現在の御座船や漕船はたくさんの観光船に囲まれ、海上は船の渋滞状態。荘厳な祭りとのギャップに思わず笑ってしまった。この時点では提灯、雪洞、篝火はまだ点灯していないが、漕ぎ手の勇ましい掛け声が海風にの
って聞こえた。だんだん日が落ち海面に夕日が映る中、私たちが乗った観光船は宮島に引き返した。対岸で祭事を終え夜に戻ってくる御座船を出迎えるため、宮島にある長浜神社に向かった。(瀬川佐知子)

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御座船に乗るため厳島神社から担がれる神輿
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神輿を乗せた御座船を曳航する江波町漕船

■長浜神社 船を迎える提灯行列と篝火
潮位の影響により更に1 時間遅れる進行予定となり、夜の時間は十分すぎるほど余裕がある。厳島神社御本殿に参拝したり、大鳥居のライトアップと暮れゆく空を眺めたり、鹿と戯れたりとゆっくりと時間を過ごし、21 時過ぎになると夜道散策や腹ごしらえを終えた人々が長浜神社に続々と集まってくる。手持ちの提灯に蝋燭の生火を灯し、暗い海面に目をこらして船を待つこと数十分。遠くから漕船の勇壮な太鼓と音頭、優雅な雅楽の音色がきこえ、篝火や高張提灯のほのかな灯りが見えてくると、ゆらゆらと提灯をゆらして船を出迎える。海に面した鳥居に船が到着すると、鳥居から神社まで貼られた結界のなかを神様がお参りする。その間は私語を慎む静粛な空気となり、船上で奏でられる管絃楽と波音に聞き入っていた。神社へのご挨拶が済むと、鳥居前で三匝し次の神社へと向かっていった。船が去った後、御本殿側まで提灯行列がおこなわれる。顔がほんの少し照らされるくらいの僅かなあかりの提灯が点々と夜道を動いていく様子はタイムスリップしたかのようだった。この時点で時刻は23 時。いつもとは異なるゆっくりとした時間の流れである。なお、お祭りというと屋台や出店が並び夜まで賑やかな様子が想像されるが、この管絃祭では宮島内は通常営業、ほとんどの店舗は夕方には閉店していた。ただ店先の提灯や民家の軒先にも行灯が灯され、静かながら特別な夜を演出していた。

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御座船を迎えるちょうちん行列の灯り。護岸に沿って灯りがゆらめく幽玄な光景だった。
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■厳島神社 大潮に沈む廻廊と御本殿還御
お祭り以外の調査ポイントは夜間の厳島神社と大鳥居のライトアップ。夕暮れ時から、鳥居を望む海岸には多くの人が集まっていた。夜が更けるにつれてだんだんと潮が満ち、鳥居のライトアップが海面に映り込む。大改修により塗り直された朱色の大鳥居は、昼は青い海空との対比が鮮やかだが、夜は黒く沈んだ背景の中で落ち着いた雰囲気に感じた。御本殿は今夜は祭事の設えである。廻廊に吊るされた提灯は大きさの割にはほのかな明るさで、足元がかろうじて見える程度の薄灯りのみ。通常のライトアップの華やかさとは一転して、廻廊の中から朱色の光が漏れ出るような厳かな夜景だった。私達は長浜神社に行く前に参拝したが、23 時過ぎに本殿近くに戻ると大潮により廻廊は冠水していた。水面に反射する提灯の灯りと、誰もいない廻廊の様子は、神聖な雰囲気を増幅しているように感じた。またどこからともなく篳篥の音色が聞こえ、御座船がお戻りになる様子を一目見ようと期待が高まる。日付が変わるころ、漕船と御座船が大鳥居をゆっくりくぐり抜けた。本来であれば、社殿ぎりぎりまで船が進み引き廻しが行われるのが見所だったが、潮位の状態により、今回は少し離れた場所で行われた。人力で船を曳航してきた漕船の漕ぎ手の櫂捌き、また太鼓に合わせて大きく身を振り音頭をとる台振りの様子は勇ましく、間近での引き廻しには拍手喝采。その後、御座船が社殿に近寄り、祝詞や管弦楽が奏上された。ご神体が社殿にお戻りになったのは25 時をまわっていた。長時間の祭事のため、当初はどこまで調査するべきか決めかねていたが、宿のご主人に見所を教えていただき、ほぼ通しで参加して時間の流れも祭事の空気も十分に感じ取れる良い体験だった。通常であれば、御鳳輦(御神輿)が本殿に戻る際、参拝者が鳳凰を触ることができ、相当な盛り上がりらしいので、次の機会は是非そこまで参加したい。

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夜になると篝火や提灯の灯りが暗い水面に映り込む。漕船の躍動感と、御座船の落ち着きの対比も面白い。


■まとめ
今回は「船上の灯り」をテーマに、瀬戸内海に面した二か所での調査を行ったが、同じ灯りの形態でも動と静と全く異なる様相だった。岩国の鵜飼の灯りは、今でこそ観光資源としての役割も大きいが、生活に根差したものであり、魚を追う人と鵜の営みの力強さを感じさせる生き生きとした灯りだった。宮島の管絃祭の灯りは、夜の海を渡る道標であり、粛々と執り行われる神事としての祝祭性を感じられた。大潮の満月だったが、船上や海辺での夜の暗さは思った以上に深く、篝火の熱さや爆ぜる炎の音、真っ暗な水面に揺れる灯りに対していつもより感覚を研ぎ澄まされた二晩だった。伝統の船灯りが今後も受け継がれていくよう、また違う地域でも調査したい。(本多由実)

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客神社前に船をつけ祝詞をあげる。本来は写真手前の桝形まで船が入り、社殿ぎりぎりのところで三度廻る。

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