朝一時半の出来事だ。青白い光の帯はカーテンを引き込むように一瞬にして私たちの頭上を駆け抜けた。 3月1日、アラスカはフェアバンクス郊外のチナの山間。夜の10時に様々な方角に向けて保温したカメラをつけた三脚をセットしてから、私たちオーロラ調査隊の一行6人は3時間半ほどマイナス15度の雪上に身を潜めていたことになる。
「キタキタ、キタ、キタ~」「ヨーシ、ヨシ」「ウワー、ホラホラホラ~」「ウワ~、スゲ~」・・・・・。何か言葉にならない感激の声があがる。気持ちがジーンとしてきて冷静に観察しようとする自分と戦っている。吸い込まれるような星空の中。白い色の帯状に揺らぐオーロラに青みと緑みが含まれる。ゆっくり延びてきたかと思うと、そこから先に素早く走って、暫くすると霞のようにフウーっと消えていく。ああ、あ~。気まぐれに美しいオーロラは西の空から現れて北の方角に帯をたたんでいった。その間、およそ10分程度だったのだろうか。夢の出来事・・・・・。
私はこれまで2度ほど飛行機の中からオーロラに出くわしたことがあるが、大した感激を伴うものではなかったのです。だから実は「いつか頭上を覆うオーロラを・・・」と思っていたのですが、とうとう実現した1週間のオーロラ調査。気の合った5人のゼミ学生と一緒に童心に帰る日々でした。ストッキング、股引、ジーパン、そして防寒スラックスと下半身でさえ4枚が差ねの重装備。上半身など何枚重ね着しているのか解らないほどでした。もちろん各種のホッカイロが各部にしまわれ、シーバスリガールのポケット瓶を忍ばせています。
フェアバンクスに4泊して1夜だけ完全な曇天の為に全くオーロラの見れなかった日があったのですが、残りの3泊はそれぞれに印象的な光に出会いました。私にとって先ずは70%の満足度です。30%の満たされない部分は事前に見せられていたたくさんの美しい色のついたオーロラの写真。滅多に来ない大ブレークの瞬間への期待感でした。様々な色を伴うオーロラは、結局見られなかったのですが、その確立はずいぶん低いものらしいのです。「オーロラ観察のコツは、決して諦めずに粘ること」と言われていたとおりです。私たち6人の結束力は固く、最終日にもお邪魔したロッジのオーナー熊谷さんご夫婦にも「皆さんの粘りには感心しました」を言わせるほど。その日はず~っと北の低い空に動きの少ないオーロラが出ていたのですが、4時間以上私たちは粘って雪の中に寝転んだり、ソリを楽しんだりしていたのです。その日は雲ひとつない快晴だったので、もちろん満天の銀河を眺めているだけで涙しそうなひと時だったのです。そこに過ぎた時間は語り尽くせません。
私たちはこのような小さな幸せの積み重ねのために生きているのでしょう。実にいい思いをしました。