照明探偵団通信

照明探偵団通信 vol.127

Update:

発行日: 2023年 12 月 04 日
・都市照明調査 Nepal(2023.11.12-11.14)
・こどもワークショップ 古民家で体験!いつもとちがうあかり in 千葉県大多喜町 (2023.11.25-11.26)
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都市照明調査 ネパール
2023.11.12 – 2023.11.14 坂野真弓+ Xianyu Liu (Flower)

ネパール正月2日目、日の出のヒマラヤ山脈の眺め

カトマンズ、パタン、バクタプルを包括する世界遺産「カトマンズ渓谷」。2015年の大地震で壊滅的な被害を受けたこの街は今、どうなっているのか? ネパールの光の祭典「ティハール」の期間中、首都カトマンズと隣接する古都バクタプルを訪れた。

神に捧げるろうそくに火を灯す母子
寺の境内で遊ぶ子供たち

■はじめに
2015年の大地震後、ネパールの都市はどうなっているのだろうか? ネパールの光の祭典「ティハール」の期間中、首都カトマンズと隣接する古都バクタプルを訪れ、復興状況と期間中の照明環境を調査した。 飛行機内からネパール全土を見下ろし、星の瞬きに衝撃を受けた。 ネパールは国民幸福指数が高い国だが、同時に非常に貧しい国でもあるため、ネパールには全く、あるいはほとんど明かりがないのだろうと思っていた。 後日、現地の人に聞いたところ、新年ということで、各家庭で色とりどりの灯りを用意し、飾り付けをし、賑やかな雰囲気を演出するのだそうだ。(Flower)

店の前で色粉、マリーゴールドの花、ろうそくで飾られた典型的な曼荼羅アートを発見

■カトマンズ
カトマンズは標高約1,400メートルに位置しており、私たちが訪れた11月中旬は日中は暑いくらいの陽気だったが、夜は10℃を下回る涼しさだった。 富と幸福の女神ラクシュミーを祀り、富と健康を祈るヒンドゥー教のお祭りと、この地方の暦での新年が重なっているため、街は喧騒に包まれていた。インドと中国に挟まれたこの国では、それぞれの文化が融合しているようだった。 例えば、モモと呼ばれる代表的な料理は、見た目は餃子のようだが、中にはインドのスパイスで味付けされたひき肉が入っており、インドのカレーに似たソースにつけて食べる。 また、2大宗教はヒンドゥー教と仏教で、寺院や僧院が点在している。 その多くは2015年の大地震で倒壊・損壊したが、2023年現在、そのほとんどは修復されているようだ。 今回の旅で最も印象に残ったのは、日の出とともにオレンジ色に染まるヒマラヤ連邦の大パノラマと、ネパールの人々の優しさだった。 (坂野)

ティハールのために地元住民が装飾した壁面
キャンドルに照らされたセト(白)バイラブ神の恐ろしい顔

むせかえるような祭りの熱気の中、群衆で溢れかえった街を歩く。 LEDテープライトの光が建物同士を繋いでいる。光源の色を変えるのではなく、単色の暖色光源を使い、透明な表面に色をつけて光の色を変えることによって、全体を見たときに光が派手になりすぎないようにしているところが、なんとも詩的だと感じた。各々が自分のできる範囲で全力を尽くして生まれたこの景色には、そこに住む人々の心
のありようが表されていた。 (Flower)

LEDテープライトを用いた非常にクリエイティブなイルミネーション
シヴァ神を祀るヒンドゥー教寺院のマジュ・デガ 投光器が広場を照らしているのが煩わしい


■ カトマンズ・ダルバール広場
カトマンズ渓谷の三大都市であるカトマンズ、パタン、バクタプルそれぞれに、旧カトマンズ王国の王宮広場であるカトマンズ・ダルバール広場がある。 ここカトマンズのダルバール広場は露店で賑わっていたが、夜は照明の明るさが足りず、人々は薄暗い中で買い物をしていた。 ジャガンナート寺院、クマリ・パビリオンなど多くの建築物が立ち並ぶ。 いずれも複雑怪奇な彫刻で飾られとても美しいものの、まぶしい昼光色の投光器で夜間、雑に照らされているのが残念だ。

カトゥマンドゥのダルバール広場  店先は明るいが、広場は薄暗い

■カトマンズ市内遠景
標高2,500メートルの高さに位置するチャンドラギリの丘からケーブルカーで見たカトマンズの夜景。カトマンズの街は車やバイクの排気ガスで息苦しいが、ここは空気が澄んでいて、街の喧騒が信じられないほど静かに感じられる。 ネパールで一番高いビルは58m。 ヒマラヤ山脈に囲まれたカトマンズ盆地には、見渡す限り低層のビルが立ち並ぶ。「光の祭典」というだけあって、LEDライトで飾られた家々の青白い灯りがあちこちでかすかに瞬いおり、街を覆う汚染された空気の層が街の明かりを乱反射させ、輝く雲のように街を覆っている。(坂野)

Looking down on the city of Kathmandu. A layer of air pollution covers the city
Colorful flowers on an alter

 ■マンダラ・アート
レンガと木で造られた暖色系の建築物とは対照的に、ネパールの街は色で溢れている。 オレンジと黄色のマリーゴールドの首輪、あちこちに吊るされた五色の祈りの旗(タルチョ)、原色の粉で描かれた曼荼羅。 家々や店先には個性的なデザインの曼荼羅が描かれ、家々にはラクシュミー女神を招き入れるためのロウソクやオイルランプが灯されている。今回の調査で、我々はさまざまな曼荼羅を目にすることとなった。

Mandala in front of Buddhist temple

■ブッダナート(ブッダ・ストゥーパ)
ブッダの骨が安置されているというチベット仏教の聖地。 白亜の外壁の台座に仏陀の智慧の眼が描かれた黄金の仏塔は、建物自体も非常にユニークである。 仏塔
の中に入ることはできないものの、仏塔を囲む円形の広場のどこからかお経が聞こえてくる中、多くの人が時計回りに歩いていた。 外壁の中に入ると、敬虔な仏教徒たちが地面に這いつくばる「五体投地」と呼ばれる方法で、長い時間真剣に祈りを捧げていた。 驚いたのは、他の場所ではちゃちなまぶしい照明器具しか見たことがなかったのに、ここにはヨーロッパメーカー製の投光器があったことだ。 辺りが薄暗くなると、4000Kの投光器が巨大な白い仏塔を幻想的に浮かび上がらせた。
2015年の震災から8年が経ち、多くの建物が修復されたが、光環境はまだまだ改善すべき点が多いようだ。 照明デザインという概念すら存在しないかもしれないこの街で、それでも人々は光の祭典を精一杯祝っている。 街中に点在するイルミネーションは、決して洗練されたものではなかったものの、人々の思いが込められていることに深い感動を覚えた。 いつか、この国の建築のように光環境も独自の発展を遂げることを願ってやまない。

Budda Stupa lit up by flood lights

たった2日間のてんやわんやの調査だったが、非常にスムーズに進んだのは、ネパールで出会った人々の優しさと寛容さによるところが大きい。 この場をお借りして深く感謝申し上げるとともに、この素晴らしい国をいつかまた訪れたいと思う。(坂野) 

こどもワークショップ 古民家で体験!いつもとちがうあかり in 千葉県大多喜町 2023.11.25-26  瀬川佐知子+東悟子+河野真実

築119 年の古民家 中野屋さんと参加者のみなさん

こどもワークショップでは暗さ体験として、囲炉裏を囲む会を複数回開催してきましたが、古民家で一夜を明かすという企画をずっと温めておりました。電気をできるだけ使わず、小さなあかりだけで夜を過ごすといつもと違うものがみえてくるのではないか。そんなことを期待した5 感をフル回転させる、そんなワークショップを行いました。

今年のこどもワークショップは千葉県大多喜町の古民家を借り「暗い中で小さなあかりの大切さを考えよう!」というテーマで行いました。コロナ禍で開催できなかったり、開催してもこどもたちと語り合う時間が設けられない年が続きましたが、今年は一泊のプログラムで、こどもたちとじっくりとあかりを感じる会にしました。5歳~小学生2 年生の6 人のこども達が集まってくれ、元気いっぱい楽しく過ごしました。

行灯づくりはペンとセロハンで自由にデザインしました


中野屋というこの古民家は、茅葺屋根で囲炉裏もあります。夜はなるべく現代のあかりに頼らず過ごそうと、まず行灯をつくりました。硬めのトレッシングペーパーにこどもたちはそれぞれ絵を描いたり、カラーセロハンを貼ったりして作成しました。室内はろうそくが使用できなかったため、LED キャンドルで代用。その行灯を持って、古
民家の周りを散歩にいきました。 この辺りの田畑に囲まれた道は街灯が一切なく、だんだんと暗くなる中、こどもたちは自分がつくった行灯で歩くという体験をしました。途中、大きな銀杏の木を面出団長が懐中電灯で照らすと
子どもたちは興味津々で我先にと懐中電灯でいろいろなものを照らしていきました。

自作の行灯を持って、夕暮れ時のお散歩へ

散歩後は既存の照明を消し、行灯のみを配置した古民家で過ごしました。まずは自分の行灯を近くに置き、庭先でバーベキュー。ただ、暗すぎて肉の焼き加減が分からないため、ここでは懐中電灯の力を借りることとなりました。あいにく曇り空だったため、星は見ることができませんでしたが、暗闇の中でもこどもたちの食欲は頼もしいものでした。懐中電灯を消すとパチパチと炭の炎が赤く光っており、子どもたちもどこかいつもと違う空間に楽しそうでした。


バーベキュー後の花火で、行灯の1 つをLEDから本物のキャンドルに替えてみました。周りのトレーシングペーパーのせいかもしれませんが、以外と違和感がなく、大人も驚きました。本物のキャンドルの方が少し明るめでしたが、LED が身近になって10 数年。色味等も改良されてきているのだなと感じました。

花火の後は囲炉裏を囲んで面出団長からあかりのお話です。残念ながら囲炉裏は炭火しか使えず、燃える薪の火は見られなかったのですが、行灯と炭の火で包まれる空間は自然とこどもたちの眠気を誘っていたようです。目が暗闇に慣れてしまったため、お話の途中で団長が見せてくれた現代の光源がとてもまぶしく感じました。こどもたちも
このまぶしさを「不快」に感じたようでした。お話の後、朝からお友達と過ごし興奮状態だったこども達もこの暗さの中、静かに眠りにつきました。

囲炉裏を囲んで、面出団長によるあかりのお話


 次の日、早朝に前日歩いた道をもう一度歩いてみました。明るくなった状態で見る景色は全然違うものだったようで、朝から子どもたちはかけっこをしながら進んでいました。最後に炬燵を囲みこの2 日間で感じたことを話しました。「暗い中で過ごすのはどうだった?」という問いに「怖かった」「全然平気だった」など様々な言葉が出てきました。
 
 夜間も光が飽和状態になっている現代に生きるこどもたちが、身近にある小さなあかりに気づき、それを大切にすることを少しでもこのワークショップで感じてくれていたらうれしいと思っています。(瀬川佐知子)

ワークショップの終わりに2日間で感じたことを話し合いました

 

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