世界都市照明調査

世界都市調査:ムンバイ

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世界都市照明調査 in Mumbai

2017/10/02-10/07  山本幹根 + 畢雲 

インド最大の経済都市であるムンバイの調査を行った。場所はインドの西海岸に位置し、かつてはボンベイと言われていた都市である。2004年に調査を行って以来、2度目の調査となる。前回の調査からどれだけ建築や照明が発展を遂げているのか、また、ムンバイの新都市として開発されたナミムンバイ(新ボンベイ)との比較を目的として調査を行った。

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ドービー・ガードは100年以上の歴史をもつ屋外洗濯場。昼間は洗濯場となっているが、夜にはそこでは人々が暮し生活感が漂っていた。背景の高層ビルとのコントラストがインドらしい。

03_チャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅_DSCN6585
駅前の建物。オレンジ色の光で建物を丁寧にライトアップしていた。手前の銅像は、白色で照らされていた。奥行き感があり象徴的な印象。
04_チャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅_DSCN6596
上の建物の照明の納まり。少し雑だが正面から見たときに眩しくないよう器具にフードが設置されている。

日没後のムンバイ空港に到着し、ホテルに向かう途中のタクシーの中からは、車道用の街路灯が道を照らすのみで、その背景として見えてくる都市は暗く沈んで見えた。中国のように発展していれば、建築のライトアップなど目立つ建物が見えてくると期待していたが、ライトアップされている建築は全く無かった。市内に入っても状況は変わらず、街路灯の灯りが周辺の建物にかかって、少し建物の表情が見える程度であった。中心部に入ると、クラクションの音がひっきりなしに飛び交っている。ゆっくりと進むタクシーの中からは、車道で何かをしている人々が大勢おり、不思議な雰囲気が漂っていた。東南アジアの雰囲気のような照明の灯りに引き付けられるようなエネルギッシュな感じではなく、街路灯の薄暗い灯りを頼りに、大勢の人々が何かをしている様子がとても印象的であった。前回の調査からあまり変化が無く、発展している感じを受けなかった。

■ランドマークの光
ムンバイには幾つかのランドマークとしての建築がある。1911年に英国王の来印を記念して建てられたインド門。その前にある世界有数のタージ・マハル・ホテル。コロニアル建築を代表し、2004年に世界遺産に登録されたチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅。イスラム教徒の聖地であるハッジ・アリー廟の調査を行った。
街の灯りは街路灯のみで、建物のライトアップは殆ど無く、窓明かりが漏れてくるだけの寂しい印象であるが、ランドマークとなっている建築はしっかりとライトアップされ夜の街を特徴付けていた。照明器具もLEDが使用されインド門ではオレンジ色の光、駅ではカラーを使用して動きのある演出をしていた。駅の前には、植民地時代の面影を残す建物があり、そこの照明は丁寧に演出されグレアをカットするためのフードなどしっかりとデザインされていた。
海の上に浮かぶハッジ・アリー廟では、水銀灯のフラッドライトで簡単なライトアップを行っており、それ自体は特に印象的ではないが、海の中を通る参道はナトリウムで照らされ、色温度の違いによりフォーカルポイントを演出していた。また、背景として暗く沈んだ海とあまり明る過ぎない都市の夜景も大切な要素だと感じた。夕方には沈む夕日を見ることができ、徐々に夜に移り変わる風景はとても美しい。

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1887年に建てられたチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅。2004年に世界遺産に登録。昼間の外観は重厚感があり細部までデザインされた建築だが、夜になるとカラーライティングに彩られテーマパークのよう。
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インド門の外観は、オレンジ色のフラッドライトで門全体を均一に照らしていた。門の中は天井を照らす白色のスポットが設置されていた。

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ハッジ・アリー廟の外観。海に浮かぶ廟には、夜も大勢の人が集まり賑わっていた。水銀灯のフラッドライトでライトアップされていた。
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ハッジ・アリー廟の参道。海の中を通る参道はナトリウム灯、奥の廟は水銀灯で照らされていた。

■明るさ感のない街
マリーン・ドライブと呼ばれる湾岸道路では、夕方頃になると人々が集まり市民の憩いの場となっている。護岸沿いの歩道幅は13mと広く、散歩をしている人や美しい夕焼け空を楽しむ人、カップルなど様々な人がいた。歩道と車道を合わせると50m程度の幅の道路には、車道専用のポール灯(H=12m)が約40mピッチで設置されていた。灯具は4灯用となっておりLEDが使用されていた。歩道灯は設置されていなかった。主要な道路であるため、車道の照度は25~70lux程度、色温度は4000Kとなっていた。周辺の道路20~30lux程度と比較すると明るい印象の道路だ。歩道の照度は5~15lux程度で、暗いところの鉛直面照度は10lux以下で人の顔はうっすらと分かる程度である。歩道と車道の間には樹木が植えられており、明るい車道に対して心地の良い暗さであった。
ムンバデーヴィー寺院周辺では、市場が幅9mほどの車道に店を出し賑わっていた。一見歩行者天国のように見えるが、車やバイクの往来が激しく、クラクションが絶え間なく鳴り響く。街路灯はナトリウムランプを使用したポール灯が7mピッチで千鳥に配置され、照度は10~30lux程度だ。照明は特に設置していない店が多く、街路灯からの明かりのみで営業していた。薄暗く何を売っているのかも分からないような店もある。少数ではあったが商品が見えるように蛍光灯や裸電球を使って商品を照らしている店もあった。
ムンバイの街路は、基本的には街路灯のみで構成され、サイン照明もなく、路面店は夜には閉店している。鉛直面の明るさが全くなく、明るさ感や賑やかさは全く感じられない。夜の賑やかさは、人が大勢集まっていることも大切だが、光も重要な要素だと感じた。(山本幹根)

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マリーン・ドライブの歩道。夕日や月明かりがとても綺麗に見えた。
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ムンバデーヴィー寺院周辺のバザール。街路灯の下で店をだす人々。
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街路灯の灯りのみで、サイン照明や店の照明は殆ど見られない。

■機能照明が耀く
ムンバイでは、照明は主に機能を満たすだけで、夜景として楽しむ文化はまだないように感じた。暗いから電気をつけるというように、機能的に必要な照明ばかりだ。
街路灯は午後6時30分になったら、全部点灯するように時間制御されているようだ。その時間帯はムンバイの日没時間だ。それから徐々に暗くなっていく。路面照度は10~30 luxだった。
室内も同じだ。ファサード照明が鮮やかなチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅のホームは、全幅80m、長さ250mの長い大屋根で構成されていた。大屋根には天窓があり、昼光を利用し、室内の明るさを維持していた。
照明は大屋根に設置された広角ハイパワーなLED照明だった。梁の高さに合わせ、8m~9m程度の高さ、前後左右8mピッチ、グリッド状に設置されていた。夜、ホーム内の色温度は6300Kで、照度は均一度が高く200 lux程度だ。デジタル時刻表や、時間表示などのサインは分かりやすく、内照式になっていたが、高い色温度と金属フレームむき出しの構造、それにデジタルサインを加え、どこか人間味がない。

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明るいチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅のホーム
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大屋根で構成される駅ホーム

■ムンバイとナミムンバイ
ムンバイの街の構成は複雑だった。高層と低層のビルがが乱立し、暗いエリアと明るいエリアも混在していた。それに対し、ナミムンバイは新たに建設された計画都市で、都市の北部にはオフィスや工場が多く、南部には住宅や公園、スタジアムなどの公共施設が計画されていた。道の縦横列がはっきりしており、街の構成も分かりやすい。

夜景の観点からみると、建物本体を見せるため鉛直照明はないに等しく、街の特徴や雰囲気を夜に示すことができていない。ムンバイでは、高層ビルやランドマークになるような建築物は次々と建設されていくが、夜になると、暗い中で影となり、非常に勿体ないと感じたと同時に、これから成長改善する余地はまだまだあると確信した。(畢雲)

パノラマムンバイ
ムンバイの夜 ポール灯以外、ファザードに対する照明はほぼない

パノラマナミムンバイ
ナミムンバイの夜 遠く縦ライン照明で飾られているのはショッピングモールとホテルの複合施設

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