探偵ノート

第028号 – 韓国ソウルの街明かり

Update:

今日はバレンタイン・デー。中国の旧正月、ランタンフェスティバルに色づく長崎に来ています。2月に入って東京はけっこう冷え込んできて、やっと日本の冬らしい感覚が戻ってきたような気がします。暖かい冬は好きになれません。早朝の表参道をオフィスに向かって歩いていても、極寒だからこそ春の訪れがもう直ぐだな・・・という気になってくるものです。冬は寒くなくてはいけません。世界の経済不況も今がどん底ですから、いま少し耐えて明るい明日だけを待っていればいいのです。 もう少し。 Take it easy・・・・・

探偵団通信の編集を担当しているスタッフから、韓国ソウルの街明かりについてレポートして、と頼まれました。ここの所とても頻繁に東京-ソウルを行ったり来たりしているからでしょう。実際、今年になって既に3回ほどソウルに出張しました。原稿を頼まれた時に、気軽にOK・OK・・・などと受けておきながら、通信発刊のギリギリまで書かずに焦っているのは、どうもソウルの街明かりに明確な特長を感じていないからのようです。実は私はソウル大好き人間。そこには大学時代からの友人もたくさんいて、昔から国内旅行のようにソウルを訪問しては上手い韓国料理を食べています(焼肉はあまり食べませんが・・・)。しかしソウルの照明は・・・となると一言で解説できないのです。常々厳しい視点で見ている照明探偵団員としては困った事態ですが。

昔はソウルに行けば必ず旧市街にあるミョンドンをふらついていました。たくさんのお洒落なブティックやショップに混じって、全羅州石焼ビビンバ、百済サムゲタン、コキコキのネンミョン(冷麺)など、美味しい飲食店がいっぱいある繁華街です。交差した道をぶらぶら歩いていると、一見新宿の歌舞伎町のような猥雑な光にも似ているのですが、歌舞伎町ほどの興奮を呼ぶわけでもなく、洗練された猥雑光でもないのです。原宿と新宿が同居してしまったような感じかな。だから、はっきりしないのでしょう。

その旧市街に対して、ソウル・オリンピック以降に急成長しているナムソウル(南ソウル)はまた違った気配の光に包まれています。ソウルの街を二分する大きな河川ハンガンの北が旧市街、南が新市街と言っているのですが、今は唖然とするほどに新市街の範囲が拡大していて、眼を見張るほどです。ナムソウルはテヘランロードと名付けられた東西軸を中心に大きな都市計画道路によって構成されていて、さながら名古屋の道路だけ立派な街を思い起こしますが、この新市街にこそ韓国の新しい文化が芽吹こうとしています。高層のオフィスビルが立ち並び、お洒落な商業ビルが進出し、各種のギャラリー、そして韓国料理と和風懐石とフレンチが混ざったようなフュージョン系のレストランに遭遇したり・・・。ここにもなんと称してよいか解らない光文化が見え隠れします。「新ソウル光」とでもしておきましょうか。もちろんライトアップされたオフィスや、ぎっちりネオンの看板や、でもその横には光ファイバーと思える小技の効いた建築もあったりします。う~ん、銀座と丸の内と、しかも急に亀戸の街が挿入されてしまったような感じかな。単純なカオス光でもないのです。

私たちは今幾つかの照明デザインのプロジェクトをソウルでやっていて、その1つがハンガンの北、1つがハンガンの南に位置しています。どちらもAaron Tanという若い建築家の率いるOMA Asia という事務所の設計によるもので、奇抜なアイデアの外観照明を要求されています。ちょっと派手な光でもあるので出来栄えに心配なところもありますが、ホテルと商業ビルなので、まあいいか・・・というところ。片方の商業ビルはあと数ヶ月で竣工する予定です。楽しみですね、どんな風に仕上がるのか。

このプロジェクトのためにソウルに出張すると、施主の用意した南山の中腹に位置した見晴らしの良いグランドハイアットに宿泊することになります。(このホテルの宴会場や外構照明をずいぶん前に手伝ったことがあり、それ以来、私は夫婦してこのホテルを常々愛用していますが)このホテルからは凍てつく広大なハンガンとともに、その向こうに発展途上の新市街を一望できます。ここに掲載する写真はその雰囲気を伝えることができるでしょうか。最上階の客室から南向きに撮影したものです。客室からだと同じアングルで朝・昼・夜の景色を同時に撮影することができます。上手く異なる景色を見ることができますか? あっそうそう、この探偵団通信はチープな白黒簡易印刷でしたね。それでは私の微妙な心の乱れを拾うことはできないでしょう。夜は寂しげな街明かりに幾つかのライトアップやネオンサインが浮いて見えるのです。ハンガンはもちろん黒いベルトのように見えます。しかし朝早起きの私は、左前方から顔を見せる朝日のお陰で、とんでもなく心に染みる良い景色を見たのです。街の中のいたるところから立ち上がる無数の煙のある景色。冷え込んだ朝なのです。多分蒸気を含んだ朝の暖房の煙です。オンドルという韓国特有の床暖房を思いました。街のあちこちで立ち上る朝の煙は人々の呼吸のようなものです。生きている街に見とれました。朝日がそれを祝福しています。特徴に欠ける牧歌的なソウルの夜景は、この何とも愛らしい早朝の景色にも繋がっているのかも知れません。極寒のソウルに愛着を抱きました。

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