テーマ:水の中へ
Interviewer:服部 祐介
服部:面出さんと最初にダイビングに行ったのは5年前、マレーシアのティオマン島でしたよね。あの時が初回でしょう?
面出:そうだね「海の中に行ってみたい」と思って一緒に連れて行ってもらった。日本人の厳しいインストラクターについてライセンスを取りました。私が64歳の時。それから私はほぼ毎年1回は潜っていて、未だ初心者ですが30本ぐらいは潜っているかな。
服部さんは何本ぐらい潜っているの?
服部:100本くらいですかね。アドバンスのライセンスを持っています。初めて潜ったときの光の体験に感動して、写真に収めたいと思って思い切って水中カメラを買いました。
海中での撮影は面白いですよ。
面出:陸上と海中ではカメラ撮影の違いある?
服部:浮いている状態で撮影するのって大変です。三脚ないし、オートフォーカスでも体ごと揺れてピントがなかなか合わない。水中カメラマンという職能が陸上のカメラマンと別にあるのはすごくわかりました。あれはおそらく相当高度なダイビングスキルが必要ですね。
面出:ダイビングは潜る人によって興味の対象が違うよね。本当に小さいウミウシが好きだったり、大きな魚を見たいという人がいたり。
服部:僕は地形を楽しむタイプです。水中のランドスケープがダイナミックだとわくわくします。魚は美味しそうだな、きれいだな、くらいの感覚でしかまだ見れていません。
面出:それは僕もぴったり一緒だね、マンタを見たいとか、ジンベイザメを見たいとかいうよりも、水に埋もれた地形にびっくりする。初めて洞窟をくぐった時は忘れられないな。
今年は地形で有名な宮古に行く計画なので楽しみだね。どんな地形に出会うか…。
服部:特に、水中空間を三次元的に縦横無尽に浮遊して行き来できるというのが、感覚的に楽しいです。
面出:そうだね、中性浮力を使った無重力感というのは、大げさに言うと魚に近くなったのかなという気分になる。その解放感は何とも気持ちいいよね。
服部:確かにそうですね。力を抜いて浮いているとリラックスします。
慣れるまでは体がこわばっているんだけど、息をゆっくり吸ってゆっくり吐くことに集中しなければいけなくて、それはヨガの呼吸と似ていとも思いました。すると、次第にリラックスしてくるような、同じ作用がダイビングにはある気がします。
面出:うん、一本目で最初は緊張感を持って海に飛び込むけど、いざ入ってしまえば、もちろん恐怖心というものはなくて、水の中になじんで深く呼吸するということがこんなに楽なんだということを感じるね。
服部:あとは、音の情報も減るのでその分違うことに集中しますね。一番大きい音が自分の呼吸と吐かれる空気のボコボコという音で。
面出:そうか海の中で音はあまり大きくないね。なるほど音の刺激が少ない分だけ視覚に集中するね。服部さんはアドバンスライセンスもっているから、30mくらい潜るんだろう?
服部:そうですね、30mくらい潜ると昼間でも暗くて、赤―黄色などの色味が見えなくなりますね。まったりとした青の世界になる。
面出:潜水が深くなるにつれて明るさが減っていく。曇天だったり、とんでもない一条のひかりの筋が差し込んだり、海中の光の体験はすごいなと思うね。狭い崖を一列になって進んで、キャスティングされた光の筋の中を通り抜けたことがあったでしょう。あの体験は忘れられないよ。
服部:それに揺らぎが加わって、水の中の光に包まれる体験というのは独特ですね。
面出:ナイトダイビングは地形を見るという意味では楽しくないかなと思ってたのだけど、自分の周りの距離間とかドキドキしながら、懐中電灯でいろんな魚を見るのも楽しかったな。
服部:ナイトダイビングで面白いと思ったのは、コミュニケーションです。
真っ暗な中で、光でサインを送る。懐中電灯の光が情報にもなる。
面出:いままでで、事故とか、これは怖かったという経験はなかった?
服部:サンゴに刺されたときは電気ショックがあって、焦ったことはありますね。潜り始めてすぐの時だったので、残りの時間大丈夫かなと。焦りは禁物ですからね。海の中だけでなく僕は宇宙も行ってみたいです。知らないところに行くことで自分の感覚を拡張できる気がするんです。今では宇宙に行ったことある人の方が深海に行った人より多いらしいです。
面出:僕は宇宙へは行こうとは思わないな。月を地上から愛でて想像力を膨らませていた方が性に合っている。しかし新しい体験が創造力を養うのは確か。「海の中」に潜む不可解な光の景色や現象は、尽きることない私の好奇心を十分満たしてくれている。これからも色んな海の中に行きましょうね。
服部:そうですね。面出さんもアドバンスライセンスも取って、もっと深く潜ってみませんか?