探偵ノート

第32号 – 白い紙に影を描く。青い紙に光を描く。

Update:

テーマ『白い紙に影を描く。青い紙に光を描く。』

Interviewer: 岩田 昌大

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国際フォーラム

岩田:今日は絵画と照明の違いについて語りたいと思います。
私は子供の頃から水彩画を描いて育ってきて、空間を光と影で捉える癖が付いています。お寺の軒下の組み物が地面からの反射光でぼんやり浮かびあがっていたり、建物に回り込む光をその場の空気を感じながら表現してきました。
LPAに入社した頃に面出さんから「照明は水彩と似ている」と言われたのが印象に残っていますが、あれはどういう意味だったのですか?

面出:そんなこと言ったっけ?透明水彩はいくつもの色を重ねていくけど、照明は光の重なりで空間を作っていく。タッチの重なりで描いていく点では似ているね。
照明デザイナーは照明器具から発する光を絵筆のように使って空間を表現していく。大筆で舐めるように照らしたり、小筆でピンポイントに照らしたり…僕は「こんな器具があればこういう絵が描けるのに」と常に考えている。
僕も浪人して美大に入ったから随分たくさん透明水彩画を描いたよ。発色の良い絵具やテンの毛の大筆の値段が高くてね。バイトの金がそっちに消えて行ったよ。

岩田:私も建築学科でしたが、やはり受験時代には道具にこだわりました。
ところで絵画では決められた構図でしか表現できませんが、照明空間は見る角度によっても全く印象が違いますね。
最近現場で外構の植栽のアップライトを調整をした際に、スポットライトで木の中央の幹や枝ぶりを照らして外側の葉をシルエットで見せる手法に感心しました。1本の木でも外から煌々と照らすのではなく、むしろ中や奥を照らすこともある。
ただ木の存在を見せるために照らすだけではなく、そのように立体感、奥行き感も出すことができる。立体的な絵画を描いているようでした。

面出:それはいい経験をしたね。

岩田:今日はあまり難しい話になりすぎないようにと思って、画材を用意したので実際に水彩画を描いてみたいです。

面出:ほほ~、僕が持っているのと同じ水彩のパレットだ。とても几帳面にパレットをまとめているね。

岩田:こちらのパレットは綺麗ですが、もう一つのパレットはあえて汚い状態のままにしています。紙の白さを最後まで活かす水彩画では如何に綺麗な発色が出せるかが重要なんです。このように白い紙にイエローオーカーを薄っすら乗せると白のままより一層光が当たっているように見えたりもします。

面出:水彩画は紙の白さを活かしながら描き込んで行く。
僕たちが照明計画をする時には青い紙に光を描き込んでいくよね。闇の中に光を描いていく手法。岩田さんは青い紙に自由に光を描いて下さいと言われたらどんな絵を描くの?

岩田:まだ自分の中でこれがベストだという絵が描ける気がしません。
具象絵画は眼前にあるものを解釈しながら表現するのですが、光のデザインは新たな三次元・四次元の立体絵画ですから、更なるイマジネーションが必要なのでしょうね。
絵画は与えられたモチーフがあって自分なりにどう解釈するか、照明は自分の中の基準を頼りに設計していく事の違いなのかなと。

面出:絵筆で絵画を描いていく事と光で照明をデザインする事は似ている点と異なる点を合わせ持っている。しかし最終的には絵心だね。芸術的に表現できることに自信をもってやれるかどうか、そこに僕たちの仕事の質がかかっている。

岩田:光を発する絵筆で空間を表現する。照明もそのような視点でデザインすれば良いイメージが湧いてくる気がします。ありがとうございました。

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