国内調査:鹿児島
2017/10/25-10/27 池田俊一+荒木友里
桜島に代表される鹿児島市は自然と市街地が一体となった雄大な景観を形成する街であり観光名所である。桜島への眺望、歴史的建造物など日本の近代化資産、傾斜緑地を背景とした市街地景観など鹿児島市ならではの景観を持つ。桜島を主軸とした景観形成が重要視されるこのエリアではどのような光環境になっているのか現地を調査した。
鹿児島空港から市街地中心部へは車でおよそ1時間かかる。晴れ渡る空、豊な水と緑、そして煙があがる雄大な桜島を車窓から眺めながらのドライブはとても気持ちが良くて気分を高揚させた。市街地に到着すると、まずは西郷隆盛像から少し歩いたところにある市役所を訪れて都市景観計画についてリサーチすることから始めた。それから中心地を走る各主要道路と公園、歴史文化エリア、商業エリア諸々を調べて照明環境の調査に向けて準備を開始した。
同じ展望台から見た鹿児島中央駅方面の夜景。カラーライティングやビルの広告塔がある。
■鹿児島の夜景
ぽつぽつと街路灯が点灯し始めた頃、徐々に夜の活気を帯びてくる街とは反対に桜島は次第に暗闇に吸い込まれるように沈んでしまった。地域の誇りであり古くから信仰されてきた山々なので、商業的なライトアップがされることに期待していなかったが、暗闇に消えていく桜島を見ていると観光資源である夜間景観としてはやはりもったいなさを感じてしまう。
じっくりと観察していると目の前に広がる市街地には目立つカラーライティングやビルの広告塔がほとんどないことに気が付いた。洗練された眺望を保つために夜間照明について明らかに配慮がされているように思える。なぜならこの展望台の視角外に位置する中央駅周辺には派手なライトアップを施した観覧車や商業ビルが立ち並んでいるからだ。
道路照明の色温度を示したマップ
■鹿児島市中心部の道路照明
中心市街地の道路照明は基本的にはオーソドックスな下方向に光を飛ばすセミカットタイプ、路面電車が併走する道路では全方向に照射するボールタイプ、歴史的建造物がある通りではガス灯風の意匠的な街路灯など、通りごとに使い分けをされている。錦江湾のすぐそばを通る鹿児島港線の街路灯では旧薩摩藩領主の島津家の家紋(丸に十文字)や港や波、蟹のマークがあしらわれた薩摩らしさを感じるデザインも見られた。
街の道路照明の光環境はというと高圧ナトリウムランプのオレンジ色の光、メタルハライドランプの白色光(4200K~)が街路灯として全体的に多く使われており、一部の通りとガス灯風な街路灯にのみLEDが使われている。多くの細い路地にある外灯(電柱に灯具のみ設置されたもの)は白色(5000K)のLEDに置き換わっていて眩しさを感じるものが多い。全体的にはここでは道路照明のLED化はあまりされていないようである。
国道255号線の商業エリアでは派手なファサード照明もある。
賑わいがある夜の天文館のアーケード前
にぎやかな繁華街。緑色に発光する看板がとても目立つ。
中央駅前の樹木は緑色でアップライトされていた。
■照度に依存しないナポリ通りの道路照明
中央駅から錦江湾に伸びるナポリ通り・パース通りは近年再整備されたエリアである。
ここでは車道用照明はなく、約15メートル間隔で歩道に立つ高さ4メートルのポール灯と中央分離帯のクスノキのライトアップだけが施されている。樹木用の照明には2400K、3800K、4200K程度の異なる3種類の色温度の照明をクスノキの葉と幹に対して意図的に照らし分けている。道路面の照度は2から4ルクス、ポール灯のそばで11から22ルクス程度で数値的には大通りとしては明るいというわけではないが、ライトアップされたクスノキが通りをダイナミックに彩りつつ明るさ感も与えている。(池田俊一)
煌々とライトアップされたクスノキが印象的なナポリ通り。
異なる色温度が使用されている。
鹿児島中央駅前は商業施設が立ち並んで活気がある。
みなと大通り公園の断面スケッチ
■大通り公園
市役所と桜島を結んだ軸線上に位置するのがみなと大通り公園である。18メートルほどの幅があり、海岸の通りまでなんと350メートルあり芝生の道のようになっている。
公園の両端に沿って、デザインの統一された二種類の街路灯が並ぶ。グローブ型の灯具がついており、路面電車線路のポール灯との関連性をうかがわせる。歩道の照度は2~3ルクス、車道は4~6lルクスという決して明るくない数値だが、街路灯の輝度や、公園の開けた先に位置するライトアップされた市役所のおかげで決して暗さを感じさせず、心地よい光環境になっていた。
しかし、調査を行ったのは20時半頃であるにもかかわらず、公園やその周辺には人影がほとんどなく寂しい様子であった。繁華街や住宅街から離れているという立地的要因もあると思われるが、夜間にも人々を呼び込める要素が何かあれば、この公園の昼夜問わず居心地の良い空間の魅力に気づいてもらえるのではないかと感じた。
■西郷隆盛像のライトアップ
鹿児島で有名なフォトスポットといえば、西郷隆盛像だろう。日中の調査時には、ひっきりなしに観光客が訪れ写真撮影を行っていた。豊かな緑を背景に高さ8メートルの大きな銅像ははとても立派に見える。一方で、夜の西郷さんは少し残念だった。周りの樹木は白色の投光器で鮮やかに照らされているが、その中央に立つ電球色で照らされた銅像は色がくすんで見えてしまっているからだ。夜でも人気のフォトスポットであるために、樹木と銅像を照らす灯光器の色温度を交換するなどしてより銅像と緑両方美しくみせる照明の工夫が必要かもしれない。
ライトアップが施された中央公民館
西郷隆盛銅像は電球色の光でとても明るく照らされている。
桜島の道路には道路照明がほとんどない。
■桜島から望む鹿児島の夜景
桜島にはいくつかの展望台があるが、今回の調査では島の西側に位置する湯之平展望台へ向かった。先の城山展望台からは錦江湾をはさんで直線6キロメートル程に位置している。港の照明には一定の明るさとする決まりがあるのだろう、港にはまぶしい白色の光があつまるが、やはり城山展望台のあたりは電球色の暖かい光が多くを占めているようだ。反対に、鹿児島中央駅のまわりにはカラーライティングを施された観覧車や、マンションの白い光が目立つ。桜島にはほとんど街路灯がないため日没後になるとあっという間に周囲は真っ暗になってしまったが、市街地へ向かうフェリー乗り場のあたりは賑わっており、生活の要となっていることがわかる。日中の調査時には退避壕のそばには街路灯が設置されていることも確認できた。(荒木友里)
湯乃平展望台から見た桜島
浅い角度の夕日による建物の影
■調査を終えて
鹿児島は展望台からの桜島への夜間の眺望に対して配慮が感じられた。桜島を主役とした日中の景観形成とは反対に、夜間は中央駅周辺を中心とした商業エリアから桜島に向かって明るさがフェードアウトする。その一方で桜島側から市街地を眺めると街が主役のように煌々と輝いている。風土と文化によって形成されたこの主役の転換こそが鹿児島特有の景観なのかもしれない。(池田俊一)