世界都市照明調査

東京調査 赤坂

2021.10.27 池田俊一+ 細野恵理奈+ 渡邉菜見子

東京都の緊急事態宣言が解除されておよそ3 週間後、コロナ流行以降初の都市調査として赤坂に出向いた。赤坂から赤坂見附は風情漂う料亭や歌舞伎町のようなネオン街がある一方、赤坂サカスを中心とした再開発により観光名所としても有名である。伝統的な街にビジネス街と歓楽街が調和する街の夜の様子を調査した。

赤坂の府間写真

■赤坂の俯瞰夜景
 高層ビルが立ち並ぶちょうど真ん中あたりが赤坂の中心地である。高所から見下ろす赤坂の夜景は目立つビルのライトアップや広告塔が少ないため、一見するとずいぶんと大人しい印象を受けたが、よく見てみると建物の隙間からは商業の光が密集している様子が見える。ライトアップや演出的な光が少ないため、魅力的な夜景とはあまり言えないが、落ち着きがあり環境にやさしい夜景といえる。

赤坂Bizタワーを下から見た様子

■赤坂サカスエリア
 赤坂駅直結の複合施設「赤坂サカス」は、ビジネスマンやショッピングに訪れた人が行き交う場所であるが、未だコロナ禍ということもあってか調査をしに行った時は通行人が思いのほか少なかったのは残念であった。高さ179 メートルの赤坂Biz タワーの足元の施設周辺の夜間照明は全体的に3000K 程度の低い色温度で統一されていて、敷地床面はやや暗めの印象ではあるものの建物から漏れる光やディスプレイ型のインスタレーション作品の光が効果的に明るさ感をつくっている。広場は樹木を照らす照明やベンチ、階段に仕込まれた間接照明などランドスケープやスト
リートファニチャーに仕込まれた照明により構成されていて、見渡す限り眩しさを与えるような照明要素がほとんどないことが視覚的な心地良さを与える理由だろう。通りを挟んだ向かい側にはカラフルな色彩に輝く歓楽街がすぐそばに立ち並んでいて、洗練された光と混沌とした光の対比が面白い。     (池田俊一)

 

■商店街通り
 外堀通りと並行して南北に走る赤坂の3つのメイン通りが、エスプラナード赤坂通り、みすじ通り、一ツ木通りである。エスプラナード赤坂通りは街路灯、ファサード照明共に2700K 程度の温かい色温度が多く、料亭・赤坂浅田の外観照明は2500K。この通りには水商売の店舗が多いが、夜に輝く袖看板はビルごとに秩序が漂う。歌舞伎町にひしめく町を飲み込むほどの動的で無秩序な電光掲示板と比較すると、銀座並木通りにも似た気品を感じる。
 続いてみすじ通りを散策すると、目に飛び込んでくるのはカラオケ店やドン・キホーテ、居酒屋やホテル、アジア系飲食店の多種多様な電光看板。みすじ通りの街路灯はエスプラナードよりも高めの約3500K で、花街の歴史を感じる人力車の車力のかぶり笠がモチーフ。青いドット照明でビルのフレームが縁どられ、SF 系アトラクションと見まごうCollins 33ビルはバブル期の強烈なインパクトを残す。 
 最後に訪れたのは、2008 年に開業した赤坂サカスを眺める一ツ木通り。建築家・石井和紘氏設計で2002 年に誕生した、三度笠と呼ばれる3度傾いたオブジェのような街路灯が印象的。一ツ木通りは中小のオフィスビルやファスト系チェーン店が多いが、サカスを除くと外構照明も皆無に等しく鉛直面の柔らかい輝度に欠けるため、交通量と反比例してどこか寂しく無機質な印象を受けた。
 赤阪の商店街一帯は、電線の埋設と電柱撤去が進み、景観が整理され、通りごとに異なる意匠性の高い街路灯が各通りの性格を印象づけていた。また、この辺りはホテルが異様に多いが、その殆どの窓が小さい。しかし、それらのホテルの外装の多くにファサード照明が備わり、窓を隠すように取り付けられたルーバー照明と相まって、プライバシー効果を高めつつ夜のストリートへの華やかな印象を与えていた。
(細野絵里奈)

赤坂の街路灯スケッチ。いずれも眩しさがなく、意匠性も高い。歴史豊かな赤坂の個性がちりばめられている

SF アトラクションさながらのCollins33ビル

■赤坂見附・外堀通り               
夜7 時を過ぎる頃、東急プラザ前にかかる歩道橋から外堀通りの観察を行った。まず感じたことは赤坂の人で賑わう小路と人通りが少ない大通りとのギャップの大きさである。赤坂見附付近は片側三車線の車道と6.5 メートルの歩道があって見通しは良いが、眼前には背の高いビルが重苦しい壁のように立ち並んでいる。東急プラザをはじめ建物のライトアップや大小さまざまな広告照明が点在しているが、通りの輪郭を構成するような照明要素はあまりなく建物たちが夜空に溶け込んでいる。そしてこの事が高所から俯瞰で見下ろした時に感じた街の暗さの理由だったのだろう。地上レベルの道路照明では高さ10 メートルのHID ランプのポール灯が使われていて車道用と歩道用に分けて灯具が設置されている。歩道用の灯具の上部には特別にデザインされた反射板がついていてアクセントになる。

歩道橋から見た外堀通り沿いの様子、コロナ禍の影響のせいか人通りはかなり少なかった

■調査を終えて
 今回赤坂から赤坂見附エリアに出向いたが、残念ながらコロナ禍ということもあり以前のようなアフターファイブを楽しむ人々の賑わいはあまり見られなかった。これもコロナ禍という重大な出来事の最中の照明探偵団活動として価値ある記録となることを少なからず期待したい。調査を経て、赤坂の街は高所の俯瞰視点では気づかないがマクロな視点で見てみると、現代的な照明デザインが施された赤坂サカスエリア、雑多でカオティックな看板が目を引く歓楽街の通り、整然として輪郭のない赤坂見附と外堀通りの夜景、それぞれ全く異なる要素が赤坂の街の中でグラデーションのように密度を変えながら個々に成立していることがわかった。歓楽街を構成する、みすじ通り、一ツ木通り、エスプラナード赤坂通りでは通りごとに街路灯のデザインが異なるなど面白い発見もあった。 

エスプラナード赤坂通りの秩序ある袖看板。気品を感じる。
広場の照明器具はうまく隠されている。

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