世界都市照明調査

ロンドン・パリ

世界都市調査 in Paris/London

2016.10.16-10.23  根本勲+岩永光樹

約12年ぶりの調査となるフランス・パリは年間外国人観光客数世界一を誇る観光都市。進化を続ける照明技術と歴史的建造物を多く残す街並みが如何にしてその魅力を維持しているのか。
そして、EU離脱を決定したばかりの激動の国イギリス・ロンドン。発展を続けるテムズ川沿いや、歴史的建造物と最新建築が立ち並ぶ大都市ではどのような姿で夜を彩っているのか調査した。

PARIS /パリ
フランスの首都パリは、世界有数の大都市であり、毎年多くの観光客を集める有名な観光都市でもある。歴史的な建造物や大規模な美美術館、高級ブランドのブティックや一流レストランなど魅力的な場所が多く存在している。「光の都」という異名を持つパリでは、どのような光を纏い、人々を魅了し続けているのかを探っていく。

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モンパルナスタワーから見たパリの夜景

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凱旋門の屋上から見たシャンゼリゼ通り
断面スケッチ
シャンゼリゼ通り断面図

■凱旋門とシャンゼリゼ通り
高さ50mあるエトワーレ凱旋門の屋上からは、パリの街を360°見渡せ、ここを基点に12本の通りが放射状に延びている。これは19世紀にセーヌ県知事であったジョルジュ・オスマンの「パリ改造」の一環によるものだ。東側には「世界で最も美しい通り」とも言われている、シャンゼリゼ通りが望める。
シャンゼリゼ通りはシャルル・ド・ゴール広場からコンコルド広場まで約2km続き、地元の人と観光客で賑わっている大通りだ。この通りは約70mの幅で、片側4車線の車路と2つの歩行空間から構成されている。街路灯は歩車路を照らす高さ10mの照明と、歩道を照らす高さ4mの照明があった。歩道用の街路灯にはLEDが使用され、千鳥状に配置されており、路面に極度な暗がりができることを防いでいた。また、大通りの両側には同程度の高さの建物が軒を連ねており、1階は店舗になっている。歩行空間の路面照度はポール灯直下で80lx、ポール灯間で25lx、色温度は1900~2300Kだった。店舗前は100lx(3000K)のほどよい明るさになっており、各々の店の個性を上品に主張しながら、この大通りをより一層賑やかなものにしていた。
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シャンゼリゼ通り中央から凱旋門を見る。袖看板はなく、派手なサイン照明の店舗もほとんどなかった。

■パリのシンボル・エッフェル塔
1889年のパリ万国博覧会のために建造され、いまやパリの象徴的な名所となっているエッフェル塔。鉄骨はエッフェルブラウンと呼ばれている色で塗装されており、下部から上部にかけて明るくなるよう3つの色調が使い分けられている。茶系の地味な色で塗装されているせいか、昼は落ち着いたパリの街に調和して佇んでいるが、夜はその存在感を強く放っていた。
通常時のライトアップは、電球色の照明で照らし上げられている。この電球色の光は、上方に向っていくにつれて自然なグラデーションを映し出していた。明るさを均一にするライトアップではなく、この陰影がパリらしく、非常に美しかった。
また、毎時00分から5分間「ダイヤモンド・フラッシュ」と言われる2万個のLEDが白色でキラキラと高速点滅される光の演出がなされる。これはパリの街ではあまりない派手な演出照明で、上品で落ち着いたパリの夜が、5分間だけエキサイティングに煌めいていた。

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エッフェル塔(昼)
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エッフェル塔(夜)

■近代的な建物・モンパルナスタワー

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1972年に旧モンパルナス駅跡地に建設され、高さ210mの59階建ての建物で、フランスで最も高いビルである。しかし、このような高い建物はパリの景観を損ねるとし、激しい景観論争を巻き起こした。確かにこの建物は周辺の伝統的な街並みとは相容れない姿で佇んでいるが、展望台からはパリの街を一望することができ、エッフェル塔やルーヴル美術館、ノートルダム大聖堂などパリの象徴的な建物が全て望める絶景スポットである。
ここからパリの夜景を眺めると、街の大分部がオレンジ色に光っていることが容易に分かる。これもパリの落ち着いた雰囲気を醸し出している一因かもしれない。

■積極的な昼光利用と光源のLED化
パリの街を調査していく中で、昼光を積極的に
利用している空間が多いと感じた。
オルセー美術館やルーヴル美術館では、エントランスホールだけでなく、展示室でもトップライトが設けられており、昼光と人工照明が併用されていた。ヨーロッパ最大級のデパートであるギャラリーラファイエット・パリでは、吹抜け空間の頭上からアールヌーボ様式のガラス丸天井を介して昼光を取り入れていた。また、売り場に設置されているダウンライトも既にLED化されている。
街路灯などに関してもLEDの光源に置き換わっているものが所々見られたが、伝統的な意匠はそのままの姿で残っているものが多かった。

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大きなトップライトが設けられている、オルセー美術館。
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LEDのシャンデリアが使われている、オペラ座ガルニエ

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ヨーロッパ最大級のデパート、ギャラリーラファイエット・パリ
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繊細なステンドグラスが美しいサント・シャペル

■これからのパリの明かり

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セーヌ川を進む船上から河岸を眺める

イベント時のプログラム化されたLEDによるエッフェル塔の多彩な演出照明。展示室の絵画を忠実に再現する為に照度や色温度を一定に保つ制御技術。伝統的な意匠を保存しながら、省エネ光源LEDへの置換えが行なわれている装
飾照明。
これらの例から分かるように、パリはこれからも照明技術の進歩を上手く取り入れながらも、彼らの美意識を損なうことのないよう、魅力的な「光の都」を維持し続けていくと感じた。
(根本 勲)

LONDON /ロンドン
ロンドンは屈指の世界都市としてアート、エンターテイメント、ファッション、メディアなど広範囲にわたる分野において強い影響力をもつ都市であり、ニューヨークに並び世界をリードする金融センターでもある。そのため様々な目的をもった人たちがロンドンに集中するため世界で最も来訪者が多い都市であり、単一都市としては世界で最も航空旅客数が多い。観光以外にもビジネスやライフスタイルなど様々な顔を持つ。歴史的建造物と現代建築郡が織り成す大都市の夜景はどのような光で構成されているのか調査した。

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ザ・シャード展望台から見たロンドンの夜景

■高所から視るロンドンの光

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テムズ川越しのロンドン新市庁舎ザ・シャード

レンゾ・ピアノが設計したEUで最も高いビル「ザ・シャード展望台」からロンドンの街並みを視るとその大半が色温度3500K~4000Kのオフィスビル照明で占められている。その窓明かりを縫うように色温度約2000Kのナトリウムランプ街路灯が等間隔に光を落とす。高層ビル群の頂部には赤い航空障害灯が散りばめられているが、それ以外の光の要素としてカラーライティングがところどころで存在感を発揮している。ザ・シャード展望台付近はオフィスエリアということもあるが総じて言える事は、ロンドンは地域ごとに特色がはっきりわかれていて各所にそれぞれの光の設えが施されているということだ。

■アイレベルから視るロンドンの光
テムズ川沿いにロンドンの夜景を構成する主要ポイントを巡ると先に述べた各々の特徴的な光の表情が具体的に視ることができる。ロンドンを代表する景色として挙げられるウェストミンスター宮殿とビッグ・ベンだが、この二棟はウェストミンスター宮殿はLED、ビッグ・ベンはナトリウムランプと別の光源でライトアップされている。世界文化遺産登録されているロンドン塔でも外壁と城壁が違う光源で均一に照らされ、歴史的建造物独特の重厚感は感じられなかった。約120年の歴史を持つ跳開橋タワーブリッジもオリンピック時のなごりもあってか鮮やかに彩られ、テーマパークの一角のような雰囲気を醸し出していた。

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二種類の光源で照らされたロンドン塔
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ウェストミンスター宮殿とビッグ・ベン
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カラーライティングされたタワーブリッジ

■混沌と秩序が隣り合った商業エリア

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街頭ディスプレイに染められたピカデリーサーカス

商業エリアの中心地「ピカデリーサーカス」に足を進めるとオフィスエリアとは一変、また新しいロンドンの一面が顔を覗かせる。一昔前はネオンサインや、白熱電球が光源だった広告も現在では巨大なLEDモニターに変わり、ロンドン・パビリオンやクライテリオン・シアターなどの歴史的建造物の外観さえもその光で染めあげる。ピカデリーサーカス中心地のエロスの噴水下でLEDモニターが一番明るい瞬間に路上面照度を測定してみると56.6lxを計測した。この毎秒表情を変える巨大LEDモニター投光機と忙しなく行き交う人々、渋滞を成すロンドンバスなどのヘッドライトで構成されたピカデリーサーカスの光環境は混沌としていて、定まることの無い表情に来訪者たちは高揚感を覚えるのかもしれない。
しかし、ピカデリーサーカスから世界的に有名なショッピングストリートのリージェントストリートに入ると、そこは混沌とは間逆に規則的な光が設えられた流麗な空間が広がる。リージェントストリートはイギリス王室関連資産の建物の外壁三階部分からのアップライトと高層階部分のリニアライトが連続的に美しい弧を照らし、低層部分には老舗ファッションブランドや王室御用達のジュエリーブランドなどが各々の世界観を語るディスプレイで連なっている。驚くべきはディスプレイを含めたそれらの鉛直面の明るさと要所に設えられた路面用照明、交差点だけ点灯されていた街路灯で光環境が構成されていた点だ。路面はショップから漏れた光や鉛直面からの反射光で不均一ながら暗いとは感じず、歩道中心部では23.0lxもの照度が計測された。建物・土地の一括管理体制が成し得たストイックな光環境が、このダイナミックな光景を生み出しているのかもしれない。

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交差点に設置された街路灯以外は点灯していないリージェントストリート
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リージェントストリート:照らされないバス停のサイン
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リージェントストリート:必要最低限の路面用照明

■ロンドンの光環境
大都市は厳しい照度制約があって街中が煌々と明るいのだろうと思ったのは杞憂だった。今回の調査で照度計が暗すぎて「測定不能」の表示をだしたのはタワーブリッジ橋上、ミレニアムブリッジ橋上、ロンドン橋端上だ。どの測定ポイントも全く照明設備がないわけではなく、ただ薄暗いという印象だった。しかし、その影響もあってかロンドンの街並みや建造物がより鮮明にみえてきたことは確かだ。エリアごとで個性がある空間に光環境も呼応し、様々な表情を併せ持つロンドン。今後の開発で更に新たな一面を見れることに期待する。
(岩永 光樹)

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一灯の投光機で照らされたタワーブリッジ橋上
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低輝度な間接照明で枠取りされたミレニアムブリッジ

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