「二度づけ禁止」の張り紙を見たことがありますか?
いまどきは徐々に少なくなってきているが、大阪の下町に見られる立ち食い串揚げ屋で見る張り紙だ。ポッピーとかバクダンとか言うような安酒をあおりながら目の前で揚げられる熱々の串揚げを、ホーローの器に入ったチャポチャポのウースターソースに串ごとドブンとつけて一気に食らう。これが大阪風の元祖串揚げの文化と聞くが、二度づけ禁止とはこのソースの中に一度つけた串を再度つけてはいけないよ・・・というルールだ。
もちろん串揚げの具の種類は様々。私はそんなのが大好きだから、昔から一人で大阪出張した時にも頻繁にこんな雰囲気に浸りに行ったものだ。この串揚げ屋には食べ放題のキャベツが千切ってあるのだが、この千切りキャベツには柔らかい葉っぱは殆どなく、固い芯の部分とその周辺ばかりが揃えてあって、これがまた上手い。ソース味の串にガブッと食らいついて直ぐにキャベツをバリバリといく。この歯ざわりの連鎖が心地よい。しかし柔らかいキャベツの葉っぱは何処に消えてしまうのだろうか?
私は5~6年前から大阪に足しげく通っている。
大阪「光のまちづくり委員会」に招かれて委員に加わっていることもあるが、大阪照明探偵団を名乗って時折大阪らしい街並みの夜景ウォッチングをしたいがためでもある。大阪の夜は実に面白い。その興味深い大阪の中でもひときわ異彩を放つのはこの「二度づけ禁止」の串揚げ屋が多く並ぶ通天閣周辺である。
どの串揚げ屋も蛍光灯でガンガン照明していて東京の焼き鳥屋のようなしっとりとした雰囲気はない。串揚げはしっとりと食らうものでないらしい。立ち食いだけでなくカウンターに座る店もある。店内を覗くと美味そうに食らいながらも、高笑いしながら大声で話す人が多い。インテリアの照明などに気を配っている暇もない・・・という感じで、中には温白色の蛍光ランプを使っている店もあったが、圧倒的に白色の蛍光灯。
さて、こんなに繁盛している店に照明デザインは有用なのだろうか? 私に串揚げ屋の光をデザインする機会は与えられるのだろうか? 大阪人が串揚げ屋に新しい照明効果を望む声はあるのだろうか?その辺にはきちんと応えることが難しい。多分不要なのだ。
雰囲気のいい店が流行る・・・というセオリーを超えているのかもしれない。いや、大阪の串揚げ屋に求められるいい雰囲気とは照明デザイナーの技を必要としない世界なのだろう。コンビニの2倍の照度を誇るドラッグストアに照明デザイナーのノウハウが無用なことと同様に、私たちの周りには気取った照明デザインを必要としない優れた環境もたくさんある。この場はそういうことにしておこう。