探偵ノート

第65号-小説とデザイン

Update:

Interviewer:林 燦

林:本日のテーマは「小説とデザイン」です。私は中学時代から小説を書いていて、元々デザイン業界にかかわるとは思わなかったですが、LPAに入って何となく小説の創作とデザインに似ているところがあることに気付きました。

面出:燦さんはどのように小説を書いているの。

林:今はパソコンがあるので最終的にはキーボードで書きますが、まずはノートと鉛筆でテーマとストーリーの流れを作り、骨とそのつなぎの筋を入れてみて、最後にパソコンで書いて肉付けをします。もちろん書き終わったとしても、また何回も何回も添削し修正する必要があります。

面出:照明デザインはかなり直感的にストラクチャーを立てちゃうからな。だから、僕らのデザインはサッと描いてすぐ終わっちゃう場合もあるけど、照明デザインでもシナリオを考える事があるよ。どのような光が訪れる人にとって心地よく感じられるか、季節毎でシナリオを考えることもある。燦さんのような文章の修正よりは細かくないけどね。

林:私の場合、大体最初にできた文字量が多いので、いったん書き終えたら一週間くらい置いておき冷静になって、それから木彫りのように要らないのではないかという部分の削除を繰り返します。ところで、エッセイは小説と違いますね。比較的気楽に書けます。

面出:エッセイね。この本は「面出さん、図や写真を使わず照明デザインってことを文字にしてください。」と言われて書いた本なんだよ。『建築照明の作法』という本。一週間半くらいかかったけど自分の思いを込めて一気に書いたよ。

林:一週間半ですか。早いですね。

面出:早かったね。パソコンで打ったものをプリントアウトしてみると、あぁ、そうじゃないなとか、言葉の使い方がつまらないなとか思う部分があって自分で直していく。だけどある時点で、自分の書いた文書を他の人に読んでもらった。赤字がたくさん入って帰ってきたよ。

林:それは私もやりますね。やはり自分だけだと見えていない部分がありますし、インスピレーションが足りない時も他の人に見せて意見を聞いたりしますね。高校時代にも文章を書く仲間たちと月一回くらい批評会を開いて、自分の書いた作品を出し皆に読んでもらって、意見を交換していました。勿論みんなの意見を丸呑みする必要はないですが、自分にとって為になる意見だけ取り入れて修正します。批判に耐えられる強いメンタルが必要ですね。

面出:今まで小説をいくつくらい書いたの。どこかに発表しているの。

林:中国語千字くらいの短編も入れれば、20編くらいですね。5か6編を雑誌や文学賞などで発表しています。これが、去年静岡県にいたころに発表した小説が載っている台湾の文学雑誌です。

面出:本当だ。静岡と書いてあるね。いいね。僕は小説を書かないけど、この本は最初、本当に若い頃に書いたエッセイだけど、こう書いている。

「世界中の優良な建築に出会うとき、そこには決まって優良な光が意図されている。建築に一歩足を踏み入れて『何だろう、この不思議な心地良さは・・・』と戸惑うことがある。明るすぎず、暗すぎず、もちろん照明器具の姿はどこにも見当たらず、目のやり場に困らないように明快な光のフォーカルポイント(焦点)が与えられている。そんなとき、そこには気配と化した光の粒子が舞っているはずだ。建築照明デザインとは、このような『巧妙な気配を創り出すための罠』を仕掛ける仕事である。」って、ちょっと偉そうだね。

「巧妙な気配を創り出すための罠」というのは、要するにこういう光で照らしたらここに来た人たちはこんな風に感動するだろうなとか、こっちを見るだろうなという「罠」、つまり仕掛けを作ることだね。だからもしかすると、今の燦さんが言った小説作りと似ているかもしれない。

林:似ていますね!面出さんの書かれたことも、すごくわかります!例えば、いかにうまく読者に違和感や興味を持たせたりするように、表現方法を吟味しないといけません。勿論味気ない日常を書く人もいますが、その日常の中に必ず何かが潜んでいるに違いありません。私たちは、言葉で形容しがたいその奇妙な気配を悟り書き表せれば、一見何の変哲もない小説でも興味を持って読み進めてもらえるのだと思います。その点は、良い照明を体験した時と似たような感覚だと思います。

面出:でも、小説というのは芸術でしょう?僕はデザインが純粋な芸術とは思っていないからね。デザインはやはり人に受け入れてもらって、要するに10人の中の7人がいいねと言ってもらわないと、我々は成り立たないんだよ。しかし小説というのはそうじゃなくて、やはり時代をガーッと刺すみたいなところもあったり、その時代にはなかなか受けないかもしれないけど、10人中、3人くらいわかる人がいれば良いという世界じゃない?

林:それはカテゴリーによって違いますね。プロの小説家になるにはやはりある程度大衆の支持がないと生業としては成り立たないですよね。台湾の小説家の金銭事情に関してはまた後程。本日はありがとうございました。

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