世界都市照明調査

世界都市照明調査: コペンハーゲン+ストックホルム

世界都市照明調査 in Copenhagen/Stockholm

2017/12/02-12/09  林虎 + 黄思濛

北半球の緯度の高い位置にある北欧4か国では夏と冬に白夜、極夜の自然現象がみられる特徴的な場所である。今回は調査日程を12月とし、極夜に近い状態の都市の光、人々の暮らしを探る事を目的とした。夜が極端に長いと生活リズムにも影響するだろうか。街の明かりや住宅の照明はこれらの問題を改善するような光になっているのだろうか?公共施設や住宅の照明から北欧独特の光環境を調査してきた。

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クリスチャンスボー城
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デンマーク国会庭園のポールライト
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車道のカテナリー照明

■デンマーク、コペンハーゲン
スカンジナビア諸国、デンマークの首都であるコペンハーゲンにはクラシック意匠と現代意匠が共存しており、町のエリアでそれぞれが分かれていた。運河を隔てたエリアは新開発地域であり色々な新しい施設が建っていた。この町を歩くと歴史が感じられ、物の作りに対しても非常に大切に考えていることがわかる。

■クラシックな光
コペンハーゲンはクラシックな建築意匠、光の使い方など歴史を感じられる町である。また意外に暗い街でもある。町全体が暖かい色味の照明で計画されており、アジアの町と違い、白い光は非常に少なかった。車道の照明にはカテナリー照明を使用していた。光は若干眩しいが、効率的な照明手法だと思う。室内からはほんのりした光が漏れてきており、ファサード照明にプラスの光効果を与えている。

旧証券取引所は1618年-1624年に建てられた建築で1857年から個人所有になった。大通りに面している壁面がレンガで出来ている長細いクラシックな建築にはそれを目立たせるような派手なファサード照明の演出があるべきだと思ったが、近くで見ると照らした感がない程度の明りで照らされていた。建物の向かい側にポールが立ち、そこにファサード用照明とカテナリー照明用のワイヤが固定されていた。ファサードは二種類の蛍光灯ランプで27m離れたところから照らしていた。その鉛直面照度は3-30lux、色温度は2400-3500Kだった。
大通りはカテナリー照明で計画されて、交差点には高さ11mくらいの街路灯が設置されていた。派手なファサードのライトアップより、場所によってはこういったほんのりした照明演出も良いかもしれない。

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旧証券取引所のファサード照明
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旧証券取引所のファサード照明の断面スケッチ

■ショッピング街の光
ショッピング街もカテナリー照明をメインで使っており、割と落ち着いた雰囲気だった。印象的だったのはアジアのような派手な発光式の看板が非常に少なかったこと。サインへの照明は主に間接照明か、アップライトが多かった。看板よりショーウィンドウを営業的に活用しているようだった。ショッピング街のカテナリー照明はLED光源で色温度は3000K、通路の平均照度は15lux 、直下で30luxだった。様々な店が集まっていながらも、照明はきちんと計画されており、町とよく調和しているのが印象的だった。

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市庁舎からコンゲンス・ニュートー広場まで結ぶショッピング街

■童話王国の光
1843年に建てられたチボリ公園はコペンハーゲンの長い夜を彩っている。夜のイルミネーションには違う意味でのショックを感じた。とても派手な照明の演出だが、やりすぎ感は全く感じられなかった。メインの入り口から入ると光の森に入ったような気持ちになり、違う世界にいるようだった。全体的に2400Kぐらいの低い色温度光源で計画されている特徴的な乗り物はRGB照明で演出されていた。イルミネーションショー以外にも音楽、噴水、照明を連動した演出もあった。チボリ公園のイルミネーションは遊園地の照明のスタンダードと言っても言いすぎではないと思う。
幸福指数第一の国、デンマークの首都コペンハーゲンは長いストーリーを持っており、町の歴史、文化が日常生活に染み込んでいて、人々が緩かい環境で暮らしているように見えた。照明環境も昔からの蝋燭、ガス灯、白熱電球の雰囲気を保つために、町の9割は低い色温度の照明になっているのがとても印象的だった。(林虎)

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チボリ公園正門口
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チボリ公園メリーゴーラウンド

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チボリ公園のプラザ
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チボリ公園の通路

■スウェーデン、ストックホルム
14の島と50を超える橋で構成されている都市ストックホルムは特に水辺の景観が重視されている。外壁への照明はなく、濃いブルーに染められた空を背景に統一された暖色の窓明かりが水平線のリズムを創り、オレンジ色に発光しているポール灯がちりばめられた星屑の様に街を装飾する。水に映った光は同じく暖色でありながらも、僅かに異なる色彩と強弱を持ち、絶妙なグラデーションを創り出している。12月のクリスマスシーズンではあったが、カラーライティングの様な演出やイルミネーションは一切無く、大きく飾られたツリーでさえ照明の輝度は強いものの、色は白の単色であった。

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ガムラスタンの水辺夜景

■穏やかな暗い街並み
白い防犯灯が多い日本で生活している人にとって、ストックホルムの街はとても暗く感じてしまうだろう。
その最大の原因は光源の色である。主要道路や公園でも照明器具の形は違っていても光源の色は基本的に2700K。街全体が落ち着いた穏やかな雰囲気になる。王立公園とその周辺を例に見ると、東側の道路はノッルマルムとガムラスタンをつなぐ橋へ連結する道路だが、片側にのみ下向きの2700Kの車道用ポールが19m間隔で立っている。反対側は建物が並び漏れ光を利用できるためか、発光型の3mほどのポール灯のみだった。それでも歩道は8-20lux、車道は30luxと必要な照度はまかなえている。
車道用ポールに木のアップライトと反対側のファサードを照らすスポットライトを取り付けている工夫もあった。公園内は1-5luxだったが、歩道は10lux程度確保されているので、通行時の不安や危険は一切感じなかった。調査時は広場にスケートリンクが設置されていて、紫の照明で演出されてた空間はアイキャッチになっていた。
ここではポール灯であったが、コペンハーゲンと同じく、ストックホルムも車道の多くはカテナリー照明を使用しており、ポールが無い為見た目がスッキリするだけでなく、光源が道路の中央にある事で効率良く照らせるのも利点だ。間接照明を用いたカテナリー照明等、デザインも工夫されていた。

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石畳が残る旧市街ガムラスタン。ポール灯は無く照明が建築ファサードに取り付けられている。
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セーデルマルムの水沿いに建つオフィスビル。住宅だけでなく、オフィスの光も暖色で統一されている。

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間接カテナリー照明
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道路中央に光を落とすカテナリー照明

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王立公園と東側の主要道路の照明要素スケッチ

■住宅のあかり
生活に一番近い光はやはり住宅のあかりである。街を歩いていても窓から見える住宅のあかりは全て暖色の光で、窓際にスタンドライトが多く見られた。今回の調査ではストックホルムに住む照明探偵団員の住宅の中を見せてもらう機会があった。小学生の子供2人と4人家族で暮らす家にはシーリングライトが一切無く、代わりにリビング、キッチン、ベッドルームともペンダント、フロアスタンドやテーブルスタンドが生活の明かりを提供している。子供部屋にはDIYしたオーナメント照明や本棚後ろに間接照明があり、子供ながらに光に対するこだわりがあって驚いた。家の中の照明は全て暖色で統一されていて、照度的にも比較的暗めであったが、これが一般家庭の生活環境だと言う。明るさの感じ方は生まれ育った環境で変わってくるというが、北欧の子供は低い照度の環境で生活していく上で、暗さへの免疫がついてくる。反対に日本の家庭では未だに1室1灯の明るい部屋が多いので、成長してから暗めの環境で生活する事にどうしても違和感を覚えてしまう。小さい頃から暗い環境に慣れさせることが明るさを求めすぎない光感覚を育てるのだという事を実感した。

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要所にスタンドランプが置いてある。器具のデザインにはかなりこだわりがあるという。
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子供部屋にはDIYした間接照明のみ。窓も小さいのでかなり暗かったが、本人は特に気にならないらしい。

■世界一長い美術館
ストックホルムの地下鉄駅はアートギャラリーである。駅ごとに異なるアーティストがテーマに沿って独自のデザインをする。中央駅地下のカラーシャドウやRADHUSET駅のネオン管等、「光」の個性的な作品が見られた。「洞窟」をイメージしたシリーズの作品では同じ照明手法と色温度を用いて統一性を図っている。単調で無機質な地下鉄の駅が個性豊かに生まれ変わっていて、利用者を楽しませてくれる、素晴らしい発想だと思った。もう一度ストックホルムを訪れて、この世界一長い美術館を制覇しようと思う訪問者は、私だけではないと思う。

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ストックホルムの地下鉄アート

■北欧調査を終えて

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主要道路のイルミネーション

調査を通して一番感じたのは、北欧の人はグレアと明るさにとても敏感である事。公共施設では機能照明にも間接照明を用いたり、遮光版やルーバーを使用したりする事でグレアを最小限に抑える工夫がなされている。街全体の明るさは「安全が保たれる最低限のレベル」と定義していいだろう。建物へのライトアップや煌煌と照らされた広告看板はほとんど見られず、街路灯と窓明かりで街の光景が形成されていた。
訪れたのが12月いう事もあり、町には少し華やかなクリスマスイルミネーションも見られたが、これらもやはり日本のものと比べると随分控えめであった。この時期、1日の2/3を暗闇と過ごす事になる北欧の人にとっては、暖かい街明かりが気持ちを落ち着かせてくれる癒しの光となっているのだろう。 (黄思濛)

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セーデルマルムの丘よりストレメン湾を眺める

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