世界都市照明調査

国内都市照明調査 神津島+新島

2023.01.20-01.22 安齋雄一+ 劉伝熠 

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あまり展望台より神津島村を撮影
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よたね広場から撮影した神津島村

■神津島村
東京都心より南に約180Km、人口1800 ほどの神津島。 地形は複雑でほぼ平地がない。集落は島中央、天上山の麓にある。神津島の星空保護活動のきっかけは2016 年観光財団による学生インターン研修ででた夜空がプラネタリウムの様に美しいというコメントだった。島では当たり前の光景だった星空が観光資源にもなる。島を上げての保護活動が始まった。具体的な取り組みは、街路灯・防犯灯は上方光束0% + 色温度2700K 器具に取り替え、光害や星空保護活動への理解と協力を得られるように住民説明会や専門家を招いて定期的なワークショップの開催、島民ガイドの育成と星空観賞会実施など、夜空を光害から守り星空の魅力を島内外に伝えている。

街路灯と自動販売機
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漁港のナトリウムランプ。広配光で機能、安全性を重視

2019 年に光害の防止のための住民や事業者の責務が明記された「神津島村の美しい星空を守る光害防止条例」が制定され、使用できる照明器具、照明手法の制限、使用時間の限定などルール作りが進んでいる。調査は幹線道路の神津本道から始めた。高さ8m 程のポール灯が25m 間隔で道を照らしている。灯具直下床面はしっかり100lx 程。光源の眩しさは感じにくいが、道路面が明るく周囲が暗いのでポール灯の下にいると舞台のスポットライトを浴びている感覚に近い。すべて2700K の照明で統一された道路は初めてだった。その光環境下、自動販売機の白さ+輝度感が目立ってくるのは残念だった。村内の細い道には高さ3 mの位置に防犯灯がついている。灯具直下床面は20lx 程。こちらも上方光束は無く、道の合流地点やコーナー部、安全上必要な場所をしっかり照らしている。光害対策の照明下でも危険や怖いなどのネガティブな暗さを感じることはなかった。驚いたのは道路照明から少し距離を取るだけで目が星々の光をとらえ始めることだった。都心の空とは全く違う星の数。地元の方には当たり前の光景だそうだ。

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昼間は暗めの店内の光に夜間は引き寄せられる


全体的に2700K で落ち着いた光環境の道を歩いていると急に商店からの漏れ光が道を包む光景に出会う。4200K。店前は50lx 程。一般的な蛍光灯の漏れ光なのだがかなり明るく感じてしまう。島全体の明るさが抑えられているのと立面の発光が少ないからだろうか。観光協会の方に伺うと、光害への理解は求めつつも、住民の暮らしと安全を優先しているとのこと。複数の照明が乱立しない環境で1 つ1つの光が際立つ村の道。住宅からの漏れ光など何気ない生活光の印象も都心とは異なっていたのが面白い発見だった。

■星空観賞会
神津島調査では地元の方がガイドして下さる星空観賞会にも参加した。開催場所は村東側の高台にある“よたね広場”。住宅地のすぐ横、数m高低差を上がっただけだが、広場は真っ暗。街路灯やお店からの光は届かない。空の暗さを測定してくれるスカイクォリティーメーターの値は約21(mag/arcsec²)。6 等星までの光が認識でき夏では天の川が綺麗に見えるようだ。あいにくの曇り空と強風だったが、雲の合間から時折満天の星空が顔を出し、ガイドさんは視界が限られた中で星や星座の説明をしてくれる。何万年も前に星から旅立ち、今やっと地球に到着した光が自分に降り注いでいる。感慨深い。ガイドさんの言葉でハッとしたのは、星の光の色は本来すべてが違い、カラフルだということ。人間の目は暗い場所では桿体細胞が活発になり物が白黒で見えてしまう。もし本来の星の光を肉眼で見ることができれば、都心の繁華街にも負けないくらいのカラフルな夜空を見ることができるのであろうか。
島の真上の空は暗いのだが、伊豆半島側の山の稜線がぼんやりと光っている。都心側からの光が夜空を照らしているとのこと。また暗い空で目立ったのは、羽田や成田空港に向かう飛行機の光だった。着陸態勢に入り高度を下げてきた機体が頻繁に星の光を遮る。星との対話中で現実に戻されるは残念だったが、それだけ都心に近い場所でこれだけの星空を楽しめるのもすごいことなのだと思う。

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よたね広場と星空
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夜の新島本道。飲食店が活気づいてくる


■新島本町
東京都心より南に約160Km、人口約2,500の新島。面積、人口でも神津島よりは規模が大きい島となる。神津島よりは平坦な土地になるが、本村に接する宮塚山は迫力があった。村の主要道路は、村中央を東西に横切る新島本道。この通りに比較的飲食店がまとまっている。そこから東に足を伸ばすと都道221 号線につながり新島空港やサーフィンで有名な羽伏浦海岸に行くことができる。旅館や商店は村内の住宅街の中に点在している。調査したのが観光閑散期のためか日中は人通りがほとんどなかった新島本道だが、夜になると飲食店ごとの照明が照り始め、車も道に並ぶ活気のある光景に変わった。宿の方に聞くとちょうど新年会の時期とのこと。各お店から地元の方、島外から赴任されている方のにぎやかな声が聞こえてくる。

インパクトのある照明でお客を迎える
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水平方向に向けられた店前照明。通り全体も明るくする

店前の照明はスポットライトや裸電球型照明、投光器やお店ロゴのプロジェクターなど多彩。色温度も2700K ~ 5000Kと幅が広い。ただお店は本道に点在しており、照明が乱立してうるさいという光景ではなかった。むしろ一つ一つのお店が離れた場所で独自の光を出し散策のししがいがあった。街路灯は5000K のLED。高さ5m の位置で床面40lx程で照らしている。上方、水平方向にも強く光を発しており、神津島と比べてしまうと眩しくい印象。光源のグレアがあるので対比でより周囲環境を暗く感じてしまう。本道から横の小道にそれると住宅街に入り、防犯灯メインになってくる。防犯灯下は15lx 程で5000K。近くの島でも街路灯wだけで雰囲気がガラッと変わることに驚いた。

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富士見展望台より撮影。本村と式根島、神津島が望める
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新島村博物館蔵、コーガ石作りの石倉


■コーガ石建築+ モヤイ像
新島は黒雲母流紋石(コーガ石)の世界でたった2 箇所の採石地の1 つだ。コーガ石は多孔性で軽量、耐火、断熱、耐酸性に優れ、消音効果、湿気、振動にも強くに加工しやすいため新島では建材としても使われてきた。一見コンクリートのようだが近づいて見るとガラス質がキラキラしていて美しい。村内を歩いているとコーガ石でできた塀や建物を多く見ることができるのだが、残念なことに新しい建物はコーガ石から一般的な建材に変わってきているようだ。現存している建物も空き家が多くなり明かりがともることは無い。少し前、昭和までは新島だけの街並みがあったという。

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新島モヤイ像物語の像達

コーガ石を使ったもので首都圏に住む方にも馴染み深いのは渋谷モヤイ像だろう。もともとは60 年代に村民が慕われてきた流人の像をコーガ石で掘ったのが始まりとされている。70 年代になるとモヤイ像製作体験ツアーが開催され、多くの観光客が島を訪れていたそうだ。そのおかけで今では100 体以上の個性的なモヤイ像を島で楽しむことができる。一番像が密集しているのは前浜海岸の道路で、港から船を降りた観光客を歓迎してくれる。夜は高さ8m、ナトリウムランプとLED の街路灯がおおよそ25m ごとに置かれ、道路とモヤイ像達も薄っすら照っているかなり独特な世界が広がる。せっかく島独自の風景なので、像一体ずつを丁寧に照らすことを想像してみるが、堀の深い顔面の威力がすごい。できればいろんな照明器具を持ち込み各像で実験をしてみたい。モヤイ像は島に点在しており、遭遇率が低いレアなモヤイもあるようだ。積極的にライトアップしているものは調査では見つけられなかったが、周囲の環境光によって異なる表情を見せる像たちを夜間楽しむことができる。

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夜間の様子。ナトリウムランプで照らされた像たちが夜道を見守っている
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村の中から見えた星

■まとめ
神津島調査では島挙げての光害対策、星空保護の取り組みと効果を見ることができた。ただそれは星空だけでなく夜の動植物の生態系にも良い影響をもたらし始めているようだ。星空ガイドのお話では渡り鳥が多く飛来する神津島は、夜間の街灯の眩しさで目をくらませ、障害物にぶつかり落下してくる鳥が街灯交換前は多かったとのこと。前浜ではウミガメが産卵に戻ってきたという嬉しいニュースもあった。子ガメは月の光を目印に夜海に帰る。明るい人口光環境はカメの命を脅かすことにもなる。しかし島には住民の生活もある。神津島村では年に4 回夜空の測定を行い、測定結果を前年より悪化させないことを目標にしている。2020年国際ダークスカイ協会から星空保護区に認定されてから約3 年。夜間の島民の安全や行事、商業に必要な明かりも守りつつ、自然の光、動植物生態系とのバランスもどう取るか今後の島の取り組みが気になる調査となった。満天の星空とそれを支える人口光。神津島でしか見れない光環境の発展に期待したい。新島調査は対照的に、多彩な人口光環境を調査することができた。賑やかな光、異なる色温度、街灯のグレアもあれば真っ暗な道路もある。モヤイの独特の光景も神津島とは全く違う新島の個性的な夜を作っていた。調査で出会えたモヤイ像達は、穏やかなもの、凛々しいもの、険しい表情のものなど、かなり自由なデザインで一つたりとも同じ顔の像は無かった。島中に個性的な顔のアートが多数点在しているのも珍しいと感じた。観光客に楽しんでもらえる夜景として各お店やモヤイ像達、新島独自のコーガ石建築などがより多彩な光をまとっていくと、新島の夜間の個性もさらに伸びてくのではないだろうか。今回伊豆諸島の2 島を連続で調査し、近くの島でも光環境が大きく異なっていることを体感することができた。観光業がどちらも主要産業の1つだが、それぞれの独自の魅力を高め今後も観光客を惹きつけていくのではないだろうか。
(安齋雄一)

都心方向からの明かりと飛行機の光

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