探偵ノート

第035号 – 春の訪れ・・・Parisのアスパラガス

Update:

040424_01
040424_02
040424_03

春の訪れ・・・Parisのアスパラガスパリに春がやってきました。日差しの柔らかさがそれを伝え、木々に芽吹く透明な青葉が風にそよぎ、極太の白アスパラガスの柔らかさに決定的な春の幸せを感じます。一週間前には雨混じりの寒い日々が続いたそうです。しかし私がシャルル・ドゴール空港に着き、ボザールの近く、サンジェルマンの私の定宿、オテル・ダングルテールにつく頃には、誰もが疑いもなくパリの最も爽快な季節、春を手に入れました。

本当に気持ちのいい昼下がり。正確に言うと、春を告げる白アスバラガスが市場の店先を占拠するのは5月1日からなのですが、それを待ちきれずに、とんでもなく極太の(男性なら誰もが嫉妬するような)立派な形のものが4月末から出始めるのです。もちろん、白アスパラガスは頭から根元まで、柔か過ぎずに程よく茹で上げただけのもの。それに酸味を加えた溶きバターを少し絡めて、潔く口の中に放り込む。これが正統派の季節の食べ方。

ううう~。思い出しただけで、またパリに戻りたくなるのです。

私がこの10年来の定宿とするダングルテールは、Rue Jacobという味わい深い小道に面したプチホテル。昔ながらの清楚な部屋もさることながら、細長い中庭に差し込む陽射しに心を奪われることしばしばです。このホテルの周りには幾つもの有名レストランやブラッセリーやカフェがあってけっこう楽しめます。しかし今回はロブションに電話しても、タイユヴァンに聞いても、「白アスパラガスは未だおいてません・・・」。仕方なくサンジェルマン大通にからむ道をひた歩いて一軒一軒「白アスパラはある?」と聞きまくったのです。ついに見つけたカフェレストランは1686年にパリに初めて登場したという老舗ル・プロコープ。気取ってなくて良心的な値段でお勧めの店です。

太い白アスバラガスが6本横たわった皿が18ユーロ。その前菜にぷりぷりのジューシーな生ガキ6個。冷えたシャプリをグラスで2~3杯だったかな? たいへん満足な年に一度の昼食。一緒に騒いでくれる友人も手配できず一人きりの食事ですが、それでも100%の満足が得られたのは、アスパラガスの力です。季節の食材にただ感謝するばかりです。

今回の出張は、パリでは建築家Paul Andreuとの北京オペラハウスの照明計画についてのミーティングがあったのですが、今回は「世界照明探偵団の本」のための原稿も書いていたので、3泊ほどしました。アスパラガスの次の日には、これも私の定番マドレーヌに近いポトフ屋さんに行きました。もちろんポトフを食するのですが、前菜にパテとスープ。パテは素朴な田舎風、パンに強引に押し付けながらいただきます。スープは野菜とお肉の滋養エキスがたっぷりの透明なコンソメ風。少し塩気が強いけれど、奥深く主菜のポトフを期待させるに十分な役者です。

どこの小さなテーブルの上にも、決まりの4品が置かれています。つまり、店で詰め合わせる赤ワインのボトル、5~6㎝程度のきっちり漬かった胡瓜のピクルス、荒挽き岩塩とマスタードです。ボトルに詰めかえられたワインはどのようにチャージされるのか理解できません。少し飲んでも全部飲んでも同じ値段なのでしょう。だから積極的に飲みます。

さて、ポトフの中身に移りましょう。先ずは牛の背骨の髄が逸品。4cmほどに輪切りにされた背骨の中心部はトロッととろけるプリン状の髄液に満たされています。これをスプーンですくってこんがり焼けたパンの上に乗せ、岩塩をぱらぱらと振りかけて食します。いいようのない甘さと口当たり。ポトフにはこれが欠かせないそうです。もちろんたっぷりと煮込んだ牛肉もついてきますが、これは牛肉なので特別のことはありませんが、マスタードをたっぷりつけて野菜の合間にいただきます。何といっても野菜の美味しさには勝てません。私の最も好きなのはくったりと煮込んだ葱です。ポアレ葱というのですが、繊維のなくなるまでに柔らかく煮込んであるので、フランス人はこれを「貧乏人のアスパラガス」と形容するように、とろけるような甘さを持っています。他にはキャベツ、にんじん、かぶ、ジャガイモなどがスープ煮になっているわけです。酸味の利いたピクルスを数本ビンから取り分けて、これらの野菜に沿わせます。岩塩をぱらぱらするのを忘れずに。この塩の中に滋養に充ちた甘みも感じます。

気がついてみると、何故か、帰りの飛行機の中でパリの照明探偵について書くつもりでいたのですが、食べ物の話ばかりになりました。大きく脱線している様子です。

はじめてモンパルナスタワーの屋上に登って360度のパリの夕陽と夜景を堪能したことや、夜遅くまで点るカフェの明かりについては次回の探偵ノートに任せます。私の場合には、光は常に季節の風や食べ物と一緒に記憶されます。いい思い出を作るには様々な気配を創る状況が重なり合う必要があります。今回はパリで幸運な気配に出会いました。思い出は日に日に積み重ねられていきます。そのようにして都合のいい記憶は確実に私の血肉となり価値となっていきます。今回は数時間前までのパリの風景を記録しました。随分ながくなってごめんなさい。

040424土曜日。ParisからTokyoへ戻る飛行機の中で・・・。

おすすめの投稿