コーヒーブレーク: 面出さんと私
Interviewer: 中村 美寿々
テーマ:『水辺の光』
中村 えーと、今日は水辺の光というテーマで…話せればと思うんですけど。先日、バンコクの都市照明調査に行きましたが、チャオプラヤー川や郊外の水上マーケットなど、川や水辺にちなんだ景色が印象的でした。泥水なのに、映り込んだ光で夜になるとすごく綺麗で。それから、今関わっているプロジェクトでも水景が大事だったりして、水辺の光の魅力ってなんなのかということについて、最近よく考えています。
面出 水というのは、光のデザインと深くつながっているよね。都市照明に関して言うと、発展している豊かな都市は水がたっぷりある場合が多いし。バンコクでは、水辺の照明がうまくできているというわけではないけど、ライトアップされたワットアルンとかね、エレベーションとして川沿いの夜の景色がきれいに水に映っていた。
中村 水に映りこんだときにこそ綺麗な照明ってあるんでしょうか。
面出 光をデザインするときの大切な材料は、ガラスと水。このふたつは非常に近い。みんなが期待するほど楽じゃないけど、面白い。フロストガラスや質感のあるガラスはすごく光を伝える要素になるけど、クリアガラスはそのままだと光を受け取らないから、輝かない。
中村 ガラスは均質に光を受けたり透過したりするけど、水面だとゆらいで暗い部分が常にできるから、奥行き感みたいなものは水のほうがある気がします。ガラスは動かないけど、水は動きうるというか。
面出 確かにガラスと水は非常に似ていながら、動くと動かないという圧倒的な違いがあるね。水は始末に負えないなと思っているけど、だからこそ、光の魔術師としての技がある。僕は隅田川の川面を見下ろすマンションに住んでいるんだけど、朝・昼・夜と、色々な水の表情に慰められている。水が光を受けてゆらめくさまというのは、何かあるね。ぼんやり見てると、まぁいいか…という気持ちになってくる。
中村 川は夜にブラックアウトしてしまうから、水の心地よさがむしろ夜に別の演出がされるような光を与えられればいいですよね。ただ水辺近くのものを照らすこと以上の何か…。
面出 うん、昼以上に夜をかっこよくするという考えは、持ってもいいけど、やっぱり川は昼のほうが心休まるよ(笑) 昼のほうが表情が豊かだから。水の流れだけでなく、陽の傾きとか、映り込む空の色とか、いろんな要因がある。
中村 そうですね、昼間の自然光に対抗するのが無理なんですね。照明でいうと、たとえば私たちがグレアで眩しいというような光源が、川に映るとキラキラしてむしろ綺麗だったりすることさえある。
面出 バンコクの話に戻るけれど、知人のカメラマンが雨の日を好むとかって聞いたね。歓楽街のカオサンロードとか、雨に日に行くようにと。
中村 あー、ネオンサインとか、すごい映り込みそうですね。
面出 たてもの園でライトアップのワークショップをやったときにも路面に水をまいたけど、すごかった。
中村 下からキラキラしていると昂揚感がありますよね。。
面出 なぜ下から光があると昂揚するの?
中村 うーん…
面出 僕はね、下からというより、空間にある明かりの量が倍増することに意味があると思う。それで、完璧なミラーではないから、上の明かりとは少し様相の違った明かりがはね返ってくる。そのあたりが大切なのかもしれないね。光の量が倍増されて、それだけでなく上にある実体が化けるというかさ。
中村 あ、ちょっと違うものがふわっと出現する感じですね。照明はあるていど制御できるものだけど、それに対して予想できないものが出現すると綺麗なのかなと思います。
面出 水というのは、多様な光を受けて千差万別の輝き方をする。それが面白いのかな。僕らはやっぱり、母なる海とか言うけど、水というものに対して体感的にも視覚的にも憧れてるところがあるかもしれないね。もちろん水が怖いという人はいるけど、水を見てると本当にいろんな表情があって、面白い。昼間に太陽光やいろんなことで変わっていく多様性に、映りこむものの表情も加わって、こんなにいろんな表情をするのかと。照明デザイナーとしては、夜にその水の表情がなくなるのが寂しいんだよね。水が太陽の光ではなく照明の光と出会うときに、もっといろんな表情が見せられるようになったらいいんじゃないかな。
中村 はい。昼間の光をなぞるだけでなく、夜の照明のもとでしか見せないような表情を水辺から引き出してあげられるよう、これからも考えてみます。