探偵ノート

第72号-暗い空間の魅力

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Interviewer: 伊藤 佑樹

伊藤:今回は“暗い空間の魅力”についてお話しできたらと思っています。暗い空間ってざっくりしているとは思うのですが、ただ真っ暗な空間というわけではなくて、暗い空間の中で少量の明かりがほんのり灯り、どこか心が安らぐような空間についてお話できたらと思っています。面出さんの中でそのような暗い空間で印象に残っている思い出などはありますか?

面出:暗い空間の思い出かぁ。たくさんありすぎて選ぶのに困るな。しかし、プーケットで泊まったホテルの暗さがとても印象的だったな。ホテルとしても考えられない暗さで、レストランで出されるメニューが読めなかったよ。

しかし面白いもので最初はその暗さに不自由さを感じていたんだけれども、目が暗順応していくにつれて徐々にその暗さにも慣れてくる。ああいった空間は作業をするといった点ではやはり弊害はあるのだけれど、読み書きなどのタスクがないときにはとても心地のいい空間・明るさ感だったと思うな。

伊藤:自分の家の照明は明るさと色温度を変えられるんですけど、色温度を低くして明るさも一番低くした薄暗い部屋で過ごしていることが多いので、暗い空間の心地良さについては非常に分かります。

面出:そんな暗い部屋で生活していたら不便なこともあるんじゃない?

伊藤:作業するうえでの弊害は凄いです。なので暗い部屋に設定したらそのまま何もできずに寝ることが多いですね。暗い空間について子供の頃の記憶を思い返すと、先ほど言った心安らぐといった感想とは矛盾してしまうかもしれませんが、ワクワクさせられることがあったなと思います。昔テーマパークに行った時の記憶なんです、アトラクションに向かう洞窟のような薄暗い道を通る時に何故かものすごくワクワクさせれられた記憶があります。

子供の頃の暗い空間の特別な思い出があったりしますか?

面出:私は自分が小さいころ暗い空間が好きだっていう記憶は全くないな。

子供の頃は夏によく宇都宮の田舎に行っていてね、囲炉裏、馬屋があるような農村家で生活していたんだよね。囲炉裏があるせいで家中が煤で黒光りして何やっても明るくならない。子供だったからね、その暗さの中にオバケがいるような怖さがあったのを覚えてるよ。その頃に闇・暗さが怖かったことでわずかな光を愛おしむことができているかもしれない。そういった経験は今思い返すと大切な思い出かもしれないね。

伊藤:現代の若い人達は面出さんが経験されたような光をも取りこむほどの暗さを体験する機会が無いことで、光に対して魅力を感じるポイントに少しギャップがあるかもしれないですね。

僕がもう一つ暗い空間の魅力だなと思うのが、人との距離が近く感じられるところです。自分は日常的に自分の視線や自分以外の人の視線を過剰に意識してしまうんですが、暗い空間だと人の視線も気にならないし、暗い空間で見えるものなんて限られているので、自分がどこを見ているかも気になりません。他にも理由はあると思うんですけど、どうしてか暗い空間では人との距離感が曖昧になるような気がしています。面出さんは暗い空間と明るい空間でコミュニケーションを取る際に何か違うなと思うところはありますか?

面出:コミュニケーションという点で言うと、煌々と明るい空間では全てが見えすぎるのがあまり良くないかもしれないね。世の中には見えない方が幸せなものもあるんだよ。ディティールが隠されて美しく見えたりもするからね。暗い空間では視覚に頼らない分自分の想像力なり自分の気持ちにあるものが掘り起こせる。そういった状況の方が自分のポジティブな面、ネガティブな面のどちらに対しても正直になれて人間の感情表現としても自然体になるんだと思う。

伊藤:面出さんのお話を聞いて自分が暗い空間を魅力的に感じる要因として想像力が大きく関係しているんだなって気づかされました。自分は子供の頃、頭の中でキャラクターを作り出して独自のストーリーを作るいう一人遊びをよくしていたんですけど、そのことを思い返すと“想像する”という行為は人間にとってとても重要な行為なんじゃないかなって改めて感じました。

面出:最近は視覚的に色々な情報がパッパと滞りなく入ってきて、自分に降り注ぐ情報の海の中を泳いでいるような状態だから、そういった情報以外に自分の頭の中で新しいものを考える暇がないように感じるんだよね。暗い空間で視覚的な情報が少ないと、自分クリエイティビティが出てくるような気がする。

伊藤:確かに実際夜の暗い空間で話していると昼間話しているより色んな話を思いつく気がします。テーマパークでの記憶も暗い空間にいるからこそ、どこか想像力が掻き立てられてワクワクしたのかもしれないですね。想像力が働いていたせいか、そういった小さい頃の記憶の中でも暗い空間での思い出が光景としてすごい脳に焼き付いている気もします。

面出:そうか、暗い空間のほうが強い印象が残るのか。

伊藤:暗い空間が記憶に残りやすいっていうのと関連付けると、寝ている時に見る夢っていつも暗いシチュエーションが多いですよね。

面出:それはどうだろう?夢の中まで暗い空間なのは伊藤くんならではじゃないかな。

伊藤:違いましたか、、、。

面出:暗い空間では視覚を奪われるまでにはならないにしろ、視覚情報が削られることでその他の聴覚・触覚などの感覚が研ぎ澄まされると思うんだよね。視覚に頼る情報が少なくなるとそれ以外の感覚で補う。それによって今まで気づかなかったことが見えてくる。イマジネーションやクリエイティビティに結びついていくんじゃないかな。

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