世界都市照明調査

国内都市照明調査 沖縄本島

2022.10.01 山本雅文+ 伊藤佑樹 

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近くから撮影した那覇市の夜景
沖縄独自のコンクリート建築と近年建てられたであろう高層住宅が入り乱れているのが分かる

多様な文化・歴史が絡み合う沖縄。沖縄では各地域ごとにそれぞれ異なった街並みが形成されているが、その要因として、それぞれが全く違った歴史背景を持つことが挙げられる。簡易的な説明となるが各地域には以下のような歴史背景が見られる。戦争により多大な被害を受け、その後新しく街を再構築することになる那覇地区、米軍基地の影響を受けアメリカ文化が色濃く残るコザ地区、そして琉球古来の街並みが残る備瀬・今泊地区。今回の調査では各地域の光環境を比較することで、地域ごとにどのような生活文化・光の特色があるのか、また沖縄らしい、沖縄ならではの光というものがどのようなものなのかを模索した。

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■栄町市場
那覇市に位置する栄町市場とは戦後の復興時に誕生し、当時とほとんど変わらぬ姿で現存している商店街である。現在昼間は地元の方々が集う活気あふれる市場となっているが、夜は昼の印象とは打って変わりディープな雰囲気を醸し出す飲み屋街へと様変わりする。夜の光環境としては居酒屋からの漏れ光や商店街の上部でうっすらと灯る蛍光灯ぐらいだ。(床面照度:約20lx)照度だけを見ると薄暗い印象を受けるが、実際の雰囲気は照度で受ける印象ほど暗い雰囲気ではなかった。何故だろうと考えてみたところ、地元住民の方々が関係していたのではないかと思う。地元の方々はお店の外まで席を広げて宴を行い、商店街全体に賑やかな声が広がっていた。そのためか栄町市場の雰囲気として、照度的には暗い空間であったが光評価とは全く別の印象を受けた。

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栄町市場(夜)
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煌々と明りが灯る国際通り


■国際通り
観光客で賑わい煌々と明かりが灯る国際通り。沖縄といえばまず国際通りを思い浮かべる方も多いはずだ。光環境としては電子看板からの突き刺すような光、またファサードにとりつくチボリ照明など、多様な光が激しく混ざり合う。街路灯に関しては経年劣化のためか、所々緑色に点灯しているものもあった。照度・色温度の統一性についても無秩序である(50 ~ 400lx、2700 ~ 4800K)。都内でも滅多に見かけない2700K の光を使ったコンビニなど、様々な光要素が入り乱れる空間であった。悪く言えば統一されてない光環境と言えるが、沖縄島内では数少ない煌びやかな光景観であり、人々を魅了する要因の一つになっており、今の沖縄を代表する光景観の一つなのかもしれない。

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守礼門のライトアップ

■夜景景観
沖縄では台風やシロアリによる被害を防ぐため9 割の建物がコンクリート建築であると言われている。そのような背景を持つ沖縄の夜景とはどんな景色なのか期待が高まっていた。しかし実際は近年建てられた高層住宅の光が数多く目立ち、沖縄を代表するコンクリート造りの住宅や赤瓦葺屋根の住宅が目立たない状況であった。正直な感想を述べると他都市の夜景とさほど変わらず、もう少し沖縄らしい街並みが望めるかと期待していた故に残念である。そんな中、自分達のイメージする沖縄住宅の景色が首里城から望むことができた。フラット屋根のコンクリート住宅が立ち並ぶこの景色こそが、自分たちが想像していた沖縄住宅の景色だ。惜しくもこの景色を夜に撮影することができなかったが、ここではどのような住宅の明かりが灯っていたのだろうか。

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■ 2700K のコンビニ
国際通りに位置するコンビニで奇妙な光環境に遭遇した。そのコンビニの店内では場所ごとに異なる色温度の照明を使っており、国際通りに面したエリアでは電球色の明かりが灯り、店内の奥に進むと白色の明かりが灯っている。夜間での外への漏れ光を考慮した上で敢えて外側に電球色の照明を設けたのか、、、はたまた発注ミスでたまたま違う色温度の照明を付けるしかなかったのか、、、本来の意図は謎のままだ、、、。

■首里城
沖縄の歴史を象徴し、地元住民の心の支えとなっている首里城は2019 年に正殿をはじめとする9つの施設が焼失する事故に見舞われた。そんな中、暗然とする住民を励ますかのように守礼門・歓会門はひっそりとライトアップされ、
本殿ほどの力強さはないがひっそりと佇む姿は心癒される景色であった。敷地内には発光面の輝度が抑えられたボラードライトが並び、夜のジョギングをする住民の方もおられた。奥に見えるはずの本殿がいつかまた力強くライトアップされる姿を望めることを切望してやまない。

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首里城裏に広がる町並み
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室内に届く強い日差しをカットするため、軒を長く設計した建物(シーサイドドライブイン)
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夜間には室内からの光が花ブロックのシルエットを綺麗に浮かび上がらせる

■強い日差しとのかかわり方
先述したように沖縄の夜は国際通りのように煌々と明かりが灯り人が賑う場所もあれば、栄町市場のように薄暗くディープな雰囲気を醸し出す場所も存在し、様々な表情を持ち合わせている。しかし一方で昼間の沖縄の表情は一律している。昼間はどの地域でも強い日差しが一様に降り注ぎ沖縄の大地を照らしている。そのため沖縄の街には強い日差しへの対策が各所に見られる。その中でも沖縄を象徴するものが花ブロックだ。

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沖縄県立博物館では花ブロックによって印象的な景観を作り出している

花ブロックは強い日射しを遮るだけでなく、ブロックの隙間から柔らかい光と風を取り入れられるようデザインされている。昼間は日差しによる影が室内を彩り、夜になると室内の明かりが花ブロックをシルエットとして浮かび上がらせる。その他にも細かな工夫がされており、ある建物では天高に比べ軒を大きく延ばして設計を行うことで日差しを中まで届かせないようにする工夫や、商店街では強い日差しを遮るため必ずタープが設けられ強い日差しを柔らかく拡散させている。
( 伊藤佑樹)

■普天間飛行場
頭上から轟音が聞こえたかと思うと、2機の戦闘機が並走して飛んで行った。本島の7割を米軍施設が占めるとだけあって、身近に感じる基地の存在。嘉数台公園から普天間飛行場を見ると住宅街に隣接するそのスケール感に圧倒される。日が沈むにつれてぽっかりと浮かぶ暗闇に、滑走路の進入灯と誘導路灯が、まるで街の暗がりを縫うように煌めく。滑走路脇の基地施設はその広域がナトリウム灯で照らされており、周辺の住宅街の4000K ~ 5000K の街並みに
溶け込むことはない。それは、ゲート前のアスファルトに敷かれた境界線のごとく2つの光環境を分け隔てる。このような明かりの輪郭が島のところどころに出現する様子が基地の街ならではの光景ではないか。

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敷地境界線超しに嘉手納基地をみる

■米軍ハウス
高台から基地内のハウスを俯瞰すると、4000K 程のポール灯の明かりに照らされた整然と立ち並ぶ建物が島並のように浮かぶ。有刺鉄線越しに見えるところまで近づくと、ハウスの窓あかりまでがはっきりと視認できる。それは全てが電球色であった。窓の周りには明滅するイルミネーションを施している家庭もみられ、カーテン越しにリビングでくつろぐ住人の姿を想像した。どんな環境下であれ住宅は緊張感から解放された安らぎの照明であるべきなのだろう。また何より、日本人よりも電球色に対して親しみを抱いているに違いない。

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高台から米軍ハウスを俯瞰
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地上からみたコザゲート通り

■コザゲート通り
嘉手納基地のゲート前から続くメインストリートは異国情緒であふれている。車道はナトリウム灯で照らされ、歩道は白色だ。しかし通りで際立つ明かりは街道沿いの店舗照明だ。ネオンやサインが煌めき、信号の明滅までもがそれと同化する。店先では赤や緑の間接照明が怪しげに浮かび、バーカウンターで談笑するのは外国籍の人々。それらの光景が道路両脇に続く。軒並み3 階建て程度に抑えられた建物。メインストリートの夜を支配するかのような眩いファサード照明は、基地の整然とした光環境と異なり、おおらかで解放感に満ちている。しかし、そのすぐ隣には、コンクリート造りで屋上に給水タンクのある沖縄ならではの住宅街や、琉球様式の住居が点在し、夜道が白色の街路灯で照らされている。もちろん住宅の窓明かりも白色が多い。異国的な繁華街の喧騒から離れ、ひっそりと静かで無機質な街明かりに照らされると、日本ならではの灯りに迎えられた安心感さえ覚える。少し離れた高台からコザゲート通りを俯瞰すると、まるで突如出現した光のオアシスのように道筋が輝いて見えた。
( 山本雅文)

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コザゲート通りは色温度が低く周辺との差異が明確
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 備瀬のフクギ並木

■備瀬の集落
フクギの木立を通り抜けていく風が木々を揺らし、白砂に落ちる木漏れ日の輪郭を微かに震わせている。海岸沿いの砂浜を歩くと時化る海から吹き荒れる潮風に体力を奪われそうになるが、並木道はそれをも遮り心地良い。しかし夜は打って変わって、懐中電灯を持って歩かなければ不安なほど暗がりが多い。海辺という熾烈な環境下だけあって故障している器具も多数ある。そのためか普段は気に留めない道端の自販機や公衆電話ボックスの照明の明るさに驚いた。街路灯は並木道の交差点ごとに点在している。観光客も多く訪れるのであろう、古民家料理屋は琉球瓦を照らし、フクギの順路を示すサインの下端には間接照明があり、ごく僅かではあるが演出的な照明を見つけた。


今泊集落の門灯

■今泊の集落
集落の人々が共同で運営し、暮らしに必要な物品を取り扱う沖縄ならではの商店を共同売店と言う。今泊集落の外れにある諸志共同売店を訪ねた。店員に伺った話しだと現在はその仕組みでは運営されていないようだ。商品は生活必需品が充実している。そういえば初日に訪ねた那覇の市場では生鮮食品が高演色の光のもとで売られていた。しかし共同売店で刺身を照らしていたのは白色の蛍光灯。わざわざ食品を惹きたてなくても売れるのだろう。備瀬も今泊もフクギが村のシンボルなのに、夜は全くライトアップされていない。照らせばもっと夜の景色が素敵になるのにと思いもどかしい。フクギ並木の地面を照らしていたスポットライトの角度をそっと変えて、木々を照らしてみるとその大きな枝ぶりが頭上に浮かびあがった。

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 琉球瓦屋根をなめるように照らす光の表情がかっこいい
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生鮮食品を高演色の光でフレッシュにみせる那覇の市場


■沖縄の暮らしとあかり
中村家住宅は沖縄の伝統的な住居が完全な形で現存しているが、ペンダントランプが整然と並ぶ姿に沖縄の風情を感じない。この日宿泊した古民家宿も、やはり一番座の天井には煌々と輝く照明。光環境の調査で島を巡って来た経緯を宿のオーナーにすると、倉庫からオイルランプを出して見せてくれた。それが吊られているジオラマを、最終日に訪ねた沖縄県立博物館で見つけた。沖縄の住居の照明も、本土と同様に近代化の波にのまれながら変化して来たのだろうか。

共同売店の照明は演色性など気にしない

また博物館に展示されていた、英字が残る空き缶でつくられたカンテラから、アメリカ文化の流入やその当時の貧しさが見て取れる。今回の旅で出会った、復帰頃から沖縄で暮らすギャラリーのオーナーから伺った「基地の中は天国、沖縄は貧しかった。」という言葉を改めて思い出す。豊かな自然と共生する島国での暮らしを支える照明は、那覇、コザ、備瀬、今泊、各々で個性的だ。それらがひとつの島国に共生することで、唯一無二の沖縄ならでは光環境を形成している。そしてそれらは豊かで厳しい自然環境に隣り合わせるように佇み、島の人々の暮らしを支えているのであろう。(山本雅文)

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オイルランプが吊られた沖縄の住居の原寸ジオラマ

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