東京調査:天王洲アイル ~水辺のあかりのしつらえ~
2014/04/16 平井美佐子 + 付佳 + 東悟子
品川埠頭橋橋からの遠景でみた天王洲アイル。住宅、店舗は低い色温度で抑えられいい雰囲気に
品川、東京、羽田からのアクセスがよく、運河に囲まれたウォーターフロントとして1990年代に注目を浴びた天王洲アイル。 一度はスポットライトを浴びた場所だが、最近ではその名前を聞くことも少なくなった。水辺の開発は、今どのような状態になっているのかを調査した。
1950 年代は倉庫街だった天王洲。1985年のバブル期に、地権者を中心とした民間最大規模の再開発が行われました。四方を運河に囲まれ、多様な商業施設、オフィス、マンション、運河沿いにはボードウォークが設けられ、都心にありながらリゾートを思わせる特有の景観をもつ街に生まれ変わり、モノレールの開通で街は一躍注目を浴びました。
今回の調査では、その天王洲を都心の水辺のあかりという視点から、首都高を挟んで、初期に開発が行われたシーフォートスクエア側とそのあとに開発されたリバーテラスガレリア側をそれぞれ調査してきました。調査を通じて対照的な 2 つのあかり空間が見えてきました。
天王洲アイル駅周辺
東京モノレール「天王洲アイル駅」下の海岸通沿いの車道側は、高圧ナトリウムランプのオレンジのポール灯で照らされており、歩道側は白い色温度高めの照明で照らされています。演色性を考えて違う二色のものを使用しているのだと思われますが、統一感に欠ける印象はぬぐえません。オフィスエリアとしての天王洲を象徴するような照明計画はやや無機質で、訪れる人々やここへ帰宅する人々を暖かく迎えるものとは言い難いようです。
遠景から望むシーフォートスクエア一帯
品川埠頭橋から遠景で望むシーフォートスクエア一帯は、電球色を感じる低めの色温度で統一されています。背後に建ち並ぶオフィスビルや高層マンション群のファサードにも華美な光の演出はなく、窓辺の明かりを中心とした落ち着いた印象。闇の中に浮かび上がる光の一群が幻想的な雰囲気。また水辺に反射する光のゆらめきが、非日常の時間の流れを演出しているようで、〝アーバンリゾート” を彷彿させるものがありました。
シーフォートスクエア
東京モノレール天王洲アイル駅に隣接するシーフォートスクエア。ガラス張りで自然光を十分に取り入れるアトリウム型のメインエントランスを奥へ進むと、京浜運河に面した広場が現れます。
品川埠頭からの遠景の眺めに対し、実際にその場に身を置くと、低めの色温度で計画されているにも関わらず、やや明る過ぎる印象。建物のファサードや地中に埋設されたアップライト、運河沿いのウッドデッキのポール灯など趣向を凝らしたライトアップ空間は、人影がまばらなこともあり、かえって寒々しく違和感を覚えました。人が集う場所にあってこそ明かりが活きるのかもしれないと感じました。
また人が少ないからなのか、器具がついていなかったり、破損していたり、メンテナンスの悪さも目立ち、さびれた感がありました。オープン当初は、” ウォーターフロント” として注目されたのに、人が来なくなった理由は何なのか。せっかくの水に近いロケーションも活かせておらず、飲食店からも、水の見える場所がほとんどありませんでした。
飲食店自体も、特徴のあるものが少なく、集客効果につながっていないように感じました。
リバーテラスガレリア側
首都高をくぐって反対側にでると、天王洲アイルより新しい街並みが続くリバーテラスガレリア。この地域は60年以上前から倉庫業を続けてきた寺田倉庫の拠点がある場所で、寺田が手掛けた人気のレストランやカフェ、ストリートがあり、そこだけが異空間でした。メタハラ、高圧ナトリウムが主光源であったシーフォート側に対して、こちら側は LED 光源が目立ちました。
照明も光と陰をリズミカルに配し、川沿いのボードウォークを歩く人も、心地いい夜の景観を楽しめる環境になっていましす。
運河沿いはちょっと腰を下ろして、川を眺めたいと思わせる落ち着いたムードある場所が多く、照度も明るいところもあれば、暗いところもあり、そこを通る人が好きなところを選んで歩け、時間を過ごせる場所のように思えました。
ポール灯や灯光器の光が眩しすぎる箇所があるのが残念でしたが、樹の影や水面に反射する光の揺らぎが心地よく、夜を楽しむのにはいい環境のようでした。
水辺を見ながら食事やお酒を飲む場所も数件あり、これであれば水をうまく使った場所と言えるのではないかと思いましたが、もう少しこのような飲食店が多くあって欲しいところです。
まとめ
多くのビルが、水に背を向けて連立している東京の中で、天王洲は〝ウォーターフロント″と呼ぶにふさわしく、運河にそってボードウォークを配し、飲食店も点在するといった親水性が高い街と言えると思います。ただ、その夜の環境はというと、長く滞在したいと思わせる魅力的なものになっていないように感じました。オフィスや高層マンションも多い地域で、人の流れはあるので、あとはいいコンテンツを誘致し、水辺に活きる光を楽しんでもらう環境を整えると一層注目されることでしょう。
天王洲にある第一ホテルから羽田空港側を俯瞰
天王洲マップ首都高速を挟んで、左右で印象が大分ちがう
車道と歩道で色温度が違う街路灯
首都高速とモノレールが走る国道の断面
ケーブルが切れて、ただの黒い箱がおいてあるだけの状態
人の気配りがあまりないシーフォートスクエア
温かな照明だが、光源がむき出しで、眩しい印象に
第一ホテル28階から見下げたシーフォートスクエア
随所にベンチや階段が配され、歩く人がくつろげるスペースに
低い色温度のLED で計画されている
建てた年代の差なのか、 共有部の照明の色温度に差がある
光と陰のコントラストが居心地の良さを作り出している