国内都市調査 大阪
2016.11.26-11.28 林虎+岩田昌大+山本雅文
調査地MAP
今回の調査対象は大阪。大阪と言っても場所によって個性的な発展を遂げていて光環境も異なる。難波・新天地の人情味のある界隈・大阪湾に面する工場地帯・中之島に残る歴史建造物や現代のビル群と水域・大阪駅周辺に広がる交通網等、幅広い光環境を多角的な視点で調査し、大阪という街を再発見する機会となった。
大阪は日本文化の中心地であり、とりわけ独自の芸能文化や食文化を築き、その様は全国的に知られている。
その地で生きる人々からは、気取らず、義理人情に厚い印象や、心の豊かさを感じることもある。
大阪の夜の光環境も、例えば御堂筋線のホームに吊られた『蛍光灯シャンデリア』のような“おおらかさ”を、どこかに秘めているのではないだろうか。
この照明器具は、大阪らしさの象徴として、東京の吉本興業本社ビルの照明としても採用された。私たちは大阪らしい灯りを探しに夜の街に繰り出した。
■大阪駅周辺
残照時の撮影地点として選んだのは、阪急百貨店へと続く歩道橋からの眺め。
JR御堂筋口と阪急を繋ぐ地上の横断歩道は、渋谷のスクランブル交差点のような位置づけで、関西地区のニュースでは、今の大阪を伝える情景として良く映し出される場面だ。ビルの間にかかる大屋根の方向に列車が進入し、それと交差するように地上は車が走り抜ける。遠くから聞こえるアナウンス、車の騒音、行き交う人々の雑踏、大阪の生まれ変わった玄関口では、今日も沢山の人間のドラマが繰り広げられる。
大江橋からの眺め 御堂筋線ホームの様子
ブルーモーメントの頃の大阪駅街区の様子
■なんば
あべのハルカスは2014年3月に開業した日本で最も高い超高層ビルである。最上階には360°見渡せる展望室があり広域を見渡せる。俯瞰して見た大阪の街は白色の灯りが多くみうけられた。御堂筋や阪神高速が大きな動脈のように際立ち、そのナトリウムランプで照らされた脈に車が流れていく。海側方向は高層ビルや工場の華やかな灯りが際立ち、山側を方向は住宅地が多く、整然と少量の灯りが並ぶ区画が広がっていた。周辺には交通量の多い通りがあり、ビルのたもとには、上空から見下げるとアルファベットの『a』の形をした阿倍野歩道橋もあり、街のシンボルとなっている。歩道橋は折り紙状の屋根からLEDのペンダント照明が吊られ、電球色の灯りが路面を照らす。平均80ルクス程度で、周囲に建ち並ぶ商業施設やメディアファサードも相まって、にぎやかな歩行空間となっていた。
(山本 雅文)
戎橋のクラシックライト
■道頓堀
繁華街にある川と言うとどのようなイメージを持つだろうか。
道頓堀川は水面レベルにウッドデッキの遊歩道や階段が整備されていて、「とんぼりリバーウォーク」という名前で親しまれている。
ライブ演奏を聞く人や飲み屋の屋外席のサラリーマンや川面に映り込むネオンのきらめきを見に来る観光客で賑わい、川の両岸に建つビルのサインの光で包まれる居心地の良い場所であった。
橋の下はダウンライトとフットライトで明るさが確保され、壁際にもたれ掛って談笑したり休憩する人が集まっていた。
道頓堀の繁華街の賑わいと、そこを横断する道頓堀の水辺の空間の賑わいは似て非なる物だが、地元民にとっても観光客にとっても自分の居心地の良い居場所を探し求める事の出来る開放的で魅力的な街であった。
(岩田 昌大)
道頓堀商店街の様子
えびす橋から川岸のネオン群をみる
道頓堀水辺の様子
■中之島
水に囲まれた中の島には近代と現代が共存しており、光環境もそれぞれの時代の特性を表現していた。時代の変化が感じられ、各時代のバックグラウンドを演出している舞台のような場所だった。ビジネス街の中で所々から出てくる近代建築のアップライトと水辺のカラーライトは緊張感を持っているビジネス街の雰囲気をもっとリラックスできるように緩和していた。水に映り込んだ照明は、水の流れや、風の動きによって様々な表情をしていた。
(林 虎)
中之島の様子
中之島公会堂
中之島ガーデンブリッジからの眺め
■工場夜景(南港)
工場地帯の俯瞰夜景
この日は生憎の雨模様であったが、日没を迎える頃には雨脚が弱まっていた。
地上252mのコスモタワー展望台に上り大阪湾を俯瞰すると街の明かりが灯り出し、埠頭のコンテナ地区はガントリークレーンによるナトリウム灯の電球色、その背後にそびえる建物群は白色、という関係が一目瞭然となる。
工場の埋め立て地は整然とした街区が形成され、主に機能的な照明の性格を帯びているが、都心部の色温度を見ると多種多様な機能が混在している事が分かる。
地上に降り埠頭公園に向かうと夜でも人々が海辺に一列に並び、海釣りを楽しむ風景が見られた。海から駅へ向かう歩道橋は蛍光灯のブラケットが明るすぎた為か間引き点灯されていたが、それでも夜の暗闇との対比が眩しく、水辺で過ごしたゆったりとした時間から醒めてしまい残念であった。
■工場夜景(浜寺)
ベッドタウンが背後にあり重化学工場が近くに立地する浜寺の石油コンビナート地帯ではどんな風景が広がっているだろうか。工場夜景スポットとしても有名な、東燃ゼネラル石油堺工場の辺りを訪れた。工場に近づくにつれて高炉から出る煙とファサードに設置された作業灯が、水路と湾岸線の向こう側から怪しく顔を出す。
水路を挟んで工場が立地している為、人と工場との距離は安心感のある物であった。夜になると作業灯が夜空を照らして明るくなっていたが、工場夜景ファンにとってはそれも含め、工場が作り出す無機質な表情がより魅力的に感じるのであろう。
(岩田 昌大)
浜寺公園から東燃ゼネラルを見る
浜寺の石油コンビナート
埠頭公園では夜に海釣りをする人達の姿も
間引き点灯しても明るすぎる歩道橋
■まとめ
大阪は、江戸時代に水運の利便性の高さから、『天下の台所』と呼ばれた。全国から特産物や年貢米が集まり、各地へと運ばれた。道頓堀も元々は、そのような運河の名称であった。水と人との距離が近かったのだろう。
現在でもその水と人の関係は保たれており、道頓堀川に架かるえびす橋の下には、ベンチと人が集うための灯りが設けられ、水辺と向き合う環境がつくられている。
また、中之島エリアの水域の演出照明は、明らかに道行く人々の気持ちを水辺へと向かわせ、水都大阪の歴史に思いを馳せる。水辺越しに眺める工場地帯も、静かに水辺で過ごす環境になりうるのではないだろうか。これからも人と街と水辺が心地よい光環境で繋がることを期待したい。
(山本 雅文)